サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第28回】
NEWS「文化」と「祭り」で「文化祭」
今年度文化祭で人気のクラス企画、お化け屋敷会場前廊下は長蛇の列。
「すみません。邪魔になるので、隣のクラス前には並ばないでくださーい」
誘導係が声をからす。隣室は硬派企画の「戦争展」だが、目下お客はゼロ。
「なんやあれ?」
廊下に並ぶ外部来場者の茶髪2人組が室内のモニュメントに気がついた。
「ああ、あれは原爆ドームや。オレ、小学校の修学旅行で行ったで、広島」
ドーム模型の横には、「もし、広島型原爆が古川橋駅に落ちたら」のタイトルで、校区周辺地図を拡大したものに、同心円がいくつか描かれている。
「あれ、見に行ったらアカンか?」と尋ねられた客引き担当生徒が、
「どうぞ。順番待ってる間に戦争展見ていってください」
行列店の予約受付のように、「代表者名」「人数」を書く簡易用紙を急きょ作成。茶髪高校生始め何人もの行列客が、「戦争展」展示室に入って行った。
「うわっ、オレの家アウトやんけ。即死ラインに入ってるで」「予想してたのと規模は違うな」「でもいまの核兵器だと、被害はこんなモンやないやろ」
お化け屋敷待ち客同士で、原爆や防衛費関係の会話がなされる。集客に悩む「戦争展」と大量待ち時間をどうしようかと思案していた「お化け屋敷」の利害が一致した。「時間待ちに戦争展見学」の、両得契約の成立だ。
「見学終わったら隣のお化け屋敷も見ていってください。マジ怖いです」
戦争展解説生徒が、見に来てくれた保護者らしき人にお化け屋敷を宣伝。
勧められてお化け屋敷を堪能してきた保護者さんが、
「怖かったー。いまの高校生、ここまで凝るのね。やるなー」
「異文化」が出会い、つきあい方を学ぶ。文化祭は、格好の異文化理解の場。「文化」と「祭り」両方が、「文化祭」の、そして「学校」の必須アイテム。
佐藤功(さとう・いさお。大阪大学人間科学研究科元教授)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。