サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために【第21回】
NEWS伝わってこそ、「指導」
最初、反論や説明を試みようとしてたYくんだが、しゃべろうとするやすぐ言葉をかぶせられ、頭から否定され、やがてあきらめたのか無口になった。
不機嫌そうにナナメ下を向き、かねてからの貧乏揺すりが激しくなる。
「……はい……はい」
彼なりにガマンしてきいてたものの、終わったと思ったところでM先生が、「じゃあもう一度、キミの悪かったことを最初からまとめとくとォ……」
言い出したときに限界が来た。
「わかってるって。何度も何度も同じ話しばっかするなよ」
ぶつぶつ言った言葉が、M先生の耳に入った。
「ちっとも反省していない」「してるわ」「してないじゃないか、何だその態度」「うっとうしいんじゃ、死ね!」「はい、対教師暴言! 停学!」
「自分が悪いのはわかってるのに、ああ何度も何度も言われたら……」
Yくんの嘆きを横できいてただけに、会議での「M先生の指導はまったく正しい。正しい指導に暴言で返したYが悪い」との経過説明にもやもやしてた。
そのとき、ベテランのQ先生が、いつもの飄々とした口調ながら声をあげた。
「指導? だあれが指導したんじゃ」
「もちろん、M先生が……」
「なあに言ってんだか。子ども相手に正論ぶつけてたたきのめして、自分が気持ちいいだけじゃろが。そんなの“指導”と呼べんワイ」
「入ってこそ指導」「伝わってこそ指導」―Q先生の顔を思い浮かべつつ、1人ひとりにサイコーの「指導」を探す日々。
佐藤功(さとう・いさお。大阪大学人間科学研究科元教授)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。