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令和6年通常国会質疑から【第8回】

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行財政

 国会では、法案審議の他に、議員の提示した課題に対して政府が見解を明らかにする質疑が行われている。今年6月23日に閉会した通常国会のうち、教育関係の一般質疑の模様を紹介していく。3月22日の参議院文教科学委員会では、「魚釣り」の教育的活用に関する質疑があった。

スポーツフィッシングと不登校、メンタルヘルス対策

 下野六太議員(公明) なじみのある方もいらっしゃるかと思いますが、スポーツフィッシングとは、広い意味では漁師以外のアマチュアの釣り人が行う釣りを指します。より具体的に申し上げれば、漁ではないこと、魚とは一対一で渡り合うこと、ほかの釣り人にも魚にもフェアであること、さおとリールや釣り糸を使って魚と引き合うことなど、スポーツマンシップにのっとった魚釣りと定義をされます。スポーツフィッシングは、単に多くの魚を釣ることを求めるのではなく、自然を相手取り、限られた道具で臨む、魚との駆け引きを重視する知的スポーツであります。
 スポーツフィッシングを題材として、喫緊の課題である不登校と引きこもりの問題に焦点を当てて質疑をいたしたいと思います。
 不登校に関しましては、皆さん御承知のとおり、令和四年の調査において小中学校の不登校児童生徒数がいずれも過去最多となり、小中学校合わせて前年度から二割増しの二十九万九千四十八人となっております。また、引きこもりの数についても、正確な統計はありませんが、内閣府が昨年三月に公表した調査によれば、全国で百四十六万人と推計をされています。
 これまでの委員会でも度々議論がなされてきましたが、これだけ大きな課題にもかかわらず、全ての事例に効果を持つような特効薬はなく、有効な予防策も見付かっているとは言い難い危機的な状況ではないかと思っております。
 私は、全国を駆け回って様々な専門家や支援団体、家族会と懇談を重ねてまいりましたが、特に感じたことは、不登校の状態が長引いてしまう子供たちや引きこもりとなってしまった子供たちに求められているものの一つとして、成功体験を重ね自信を取り戻すことが重要であるという点であります。
 昨年秋、引きこもりの支援団体がスポーツフィッシングを含む自然体験イベントを開催しましたが、こうしたイベント参加者のうち約半数が就労することができたといいます。スポーツフィッシングを通じた一つ一つの小さな成功体験が参加者の自信につながっているのではないかと思います。
 ほかにも、小学校六年生で不登校となってしまった子供が、スポーツフィッシングという関心をきっかけとして漁師と友達になり、職場体験を通じて稚魚の研究に没頭し、専門高校を卒業して定置網漁の修業をしているといった事例も耳にしております。
 政府は、体験活動、交流活動の充実を進め、事例集なども取りまとめていますが、その中でも、不登校や引きこもりの支援団体によるものを含め、こうしたスポーツフィッシングを題材とした不登校、引きこもり支援の好事例について、把握しているものがあれば教えていただきたいと思います。

 文科省初等中等教育局長 教育や福祉の現場では不登校児童生徒や引きこもりの子供たちの体験活動の一環として様々な活動が実施されており、詳細まで把握しているものではございませんが、その中には、不登校児童生徒の支援の一環として、釣りを活動内容の一つに位置付けている教育センター、例えば山梨県甲州市、三重県亀山市、新潟県胎内市、こういった事例があるというふうに承知しております。

 下野六太議員 そういった事例があった場合に、非常に好事例として成果上がった場合は、是非横展開を、広報してもらえれば有り難いなと思っています。よろしくお願いします。
 次に、スポーツフィッシングによる家庭のメンタルヘルスの向上について伺いたいと思います。
 先ほど申し上げた子供たちの成功体験の蓄積と自己肯定感の涵養は、スポーツフィッシング以外の自然体験活動、例えば登山といったアウトドア活動全般にも共通することでありますが、私がスポーツフィッシングを特に取り上げたいもう一つの理由がメンタルヘルスの観点です。
 イギリス人男性約千七百人を対象にイギリスで行われた研究によりますと、スポーツフィッシングはメンタル面のトラブルを防ぐように働いている可能性が示唆されました。釣りをしている人には、うつや自殺願望、自傷行為の既往のある人が統計上少なかったといいます。このイギリスの調査からは因果関係は必ずしも明らかとはなっておりませんが、研究者は、メンタルヘルス上の問題を抱えている人に対して釣りを勧めることは、身体活動量を増やし、かつ、自然環境の中で時間を過ごすことによるストレス解消効果という二つの経路を介して状況の改善につながるように働くのではないかと述べております。
 小中学校の不登校児童生徒の約四割に当たる十一万四千二百十七人は、学校内外の機関等での相談、指導等も受けておりません。子供本人だけではなく、家族も一緒に問題を抱え込んでしまっている構図が浮かんできます。
 総務省が昨年公表した不登校・ひきこもりのこども支援に関するアンケート調査では、学校や学校以外の機関、施設による支援全般に対する意見、要望の一つとして、本人や家族を含めたメンタルの安定が必要との意見も多数寄せられています。
 不登校の支援団体では、支援者が子供とその家族をスポーツフィッシングに誘い、体験を通じて事態が好転した事例も報告をされております。年齢を問わず楽しむことができるスポーツフィッシングがきっかけとなり、子供と家族のメンタルヘルスが改善をされ、問題解決の糸口になっているものと思います。
 政府は、不登校や引きこもりの支援において、民間団体やNPO等と積極的に連携し、相互に協力、補完することの意義を強調しておりますが、先ほど御紹介いたしましたスポーツフィッシングを題材として子供や家族の支援につなげる取組についてどのように考えておられるかということで、所感をお伺いしたいと思います。

 文科省初等中等教育局長 御指摘のスポーツフィッシングを題材にすることも含め、不登校児童生徒等への具体的な支援の取組は、児童生徒の状況に鑑み、各都道府県、各教育委員会等において御判断いただくものでございますが、釣りを含めた、多分自然豊かな場所で行われるものだと思いますけれども、自然体験活動は子供たちの豊かな人間性や社会性、主体性を育む上で重要だというふうに考えております。
 文部科学省といたしましても、学校や教育支援センター等における体験活動の取組に対する支援を行っているところでございまして、不登校児童生徒が様々な体験活動できるような環境づくりを積極的に進めてまいりたいと考えております。

 下野六太議員 スポーツフィッシングは、誰もがどのようなものかイメージすることができる一方、いわゆる魚釣りですから、そのイメージはしやすいかと思います、しかし、実際にやるとなれば、釣りざおや仕掛けなどの道具が必要になるほか、一定のノウハウの習得や場所の確保が必要であり、参加のハードルは必ずしも低いものではないかと思います。
 様々な効用が期待できる自然体験活動の一つとして、子供たちやその家族が望めばスポーツフィッシングに触れることができるよう、様々な機会を拡充していくことも重要ではないかと思います。そのためには、公益財団法人日本釣振興会といった関連団体の更なる協力を得ることも有効なのではないかと思いますが、どのように考えておられるかということをお伺いしたいと思います。

 スポーツ庁次長 スポーツフィッシングは、年齢や性別、障害の有無等にかかわらず誰もが親しむことができ、また家族でも楽しむことができるスポーツレクリエーションの一つと考えております。スポーツ庁では、楽しさや喜びといったスポーツの持つ価値の拡大を目指し、釣りを始めとしたスポーツレクリエーションについても重要と考え、その振興に努めているところでございます。
 特に、今御指摘ございました公益財団法人日本釣振興会でございますが、スポーツ庁では、この振興会が主催いたしますジャパン・フィッシングウィークに後援名義を出すであったり、あとtoto助成の支援であったり、さらには、スポーツ庁の事業といたしまして、スポーツ・イン・ライフという、こういう事業を展開してございます。その中の加盟団体として支援をさせていただいている、そういったことを行っているところでございます。
 今後とも、釣りを始めとしたスポーツレクリエーションの振興とスポーツを通じた国民の健康増進の実現に向けまして、振興会を始め関係団体との更なる連携を図ってまいりたいと思います。

 下野六太議員 スポーツフィッシングを題材として、不登校、引きこもりの問題について質疑をさせていただきましたけれども、本日御紹介しました事例や取組が一つのきっかけになって、更に生きづらさを抱えておられる方等が改善できるようになることを祈っております。
 スポーツフィッシングに限らず、不登校、引きこもりの解決の糸口となるようなものを模索すべく、私も引き続き努力をしていきたいと思いますが、先日、日本釣振興会で三十分間お話をさせていただいたときに、こういった話をそこで伺いました。重度の自閉症のお子さんを持つ親が、自閉症には釣りが有効だということを聞いて、それで子供に話をして、そして釣りの方に連れ出したと。そうしましたところ、子供が、自閉症の症状が、もう釣りにはまって改善をしていったということを、二百人の、これ北海道の話なんですけれども、二百人の社員の前でそのことを話したと、エピソードを。そしたら、その二百人の社員の中に自閉症の子を持つ親御さんが十人いたと。その方々が次々に、じゃ、私もやってみようということで、次々にお子さんを連れて釣りに連れ出したところ、それぞれに自閉症の症状が改善をしたというような話も伺っています。
 そしてさらに、日本釣振興会では、大阪での話になります、児童養護施設等で生活をしている子供たちに釣り体験教室を毎年開催しているということで、豊かな自然体験を味わわせていきたいということで、しっかりとそういった社会貢献等にも挑んでおられるということも聞いておりますので、しっかりと、これからもまた支援の方をお願いしたいというふうに思います。

令和6年通常国会質疑から