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サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第10回】

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論説・コラム

積極的傍観

 赴任当初の学校はとかく若手が多い職場だったから、体育祭ともなると若い先生たちが実によく動いた。先手先手、おかげで体育祭は実にスムーズ。閉会後の「お疲れさん会」では、真っ黒に日焼けした教員たちが、生ビール片手に互いの健闘をねぎらいあったものだ。ぼくもその1人―。

 ある年、本校転勤間もないN先生が、体育祭主担となった。彼女が最初の会議で言い放ったことばにびっくりだ。

「……はっきり言って、先生方がよってたかって生徒たちの成長をジャマしてます」

 当初何のことかわからなかった教員たち(ぼくもその1人)を尻目に、N先生、体育祭実行委員幹部の生徒と毎夕「作戦会議」をみっちり。本番前日のリハーサルでは、朝礼台横の炎天下に生徒机を1つ置き、そこにどかっと座って体育委員長や実行委員生徒たちからの相談に乗る。それを受け、相談、決定、指示出しはすべて生徒。前年までの、担当教員怒号のもと繰り返し繰り返し行われるリハとは全然違う、ゆるいけどほのぼのした空間がそこにあった。

 結局、最後の注意事項伝達以外、自分は1度もマイクを持たなかった彼女の姿は、体育祭当日は本部周辺になく、会場周囲のゴミ拾いをしておられた。その間、いくつか起こったトラブル対処は、すべて実行委員生徒たち相談のもと、体育委員長が指示を出し、乗り切った。

 体育祭当日朝礼で、N先生が教員たちに伝えた「1つだけお願い」のことばが素敵だ。

「どうかがまんして、『高校生の体育祭』を見てやってください」

佐藤功(さとう・いさお)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「国内旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。

サトー先生の「きょういく日めくり」