サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第6回】
NEWS「聴く」は最高の自己表現
古くからの研究会仲間、上間陽子さんは、琉球大教授にして、沖縄の貧困や性暴力などを世に伝えるベストセラー作家。近著『海をあげる』(筑摩書房)には、こんな一節がある(p249)。
「聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれない」
上間さんらしいことばだな、と思う。
「きくことしかできなくてごめんね。気のきいたことばもかけられなくって」
上間さんのことばを読んだとき、かつての同僚、Nさんの顔が浮かんだ。
長時間、じっと生徒の目を見つめながら話をきくNさん。生活指導室奥の遮蔽カーテンの向こうで、Nさんが生徒と話していることがよくあった。だれかが「N先生いますか」と思い詰めたようすで入ってくると、他の教員たちは静かに席をはずすのが暗黙の了解。長くなることもよくあるが、話す前と全然違う生徒の表情に驚くことたびたび。その後、皆で解決に向けて取り組んでいく。
「サトー先生はいいなあ、口がお上手だから。私なんて、生徒の話しきいてもうまい表現が全然出てこない。表現力がないんだなあって、ホントもどかしい」
ボクが反論の口を開くその前に、横にいたM生活指導部長がすぐ言った。
「何言ってるんですか。サトー先生みたいな口のウマイ先生はいっぱいいる。でも、生徒に話したいって思わせる先生ってなかなかいないよ。敏感なんだ、彼ら。心からきいてくれる人にしか、口を開かないから」
そのとおり!確かにボクなんてホント口先だけだから……なんでやねん!!
「ひとりツッコミ」開始のボクを尻目に、M部長が続けた。
「「聴く」は最高の自己表現。Nさんって最高に表現力豊かな人だと思うよ」
悔しいけど、大いに納得。
佐藤功(さとう・いさお)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「国内旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。