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ライフコーチの視点から 現代を生きる子ども・若者のリアル【第19回】

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論説・コラム

自分も人も大切にするコミュニケーションとは?

 連載第16回、17回、18回では、愛知県の公立小学校4年生~6年生に行った出張授業後の子どもたちの感想をお届けしてきた。今日は、どんな授業を行ったのかをご紹介したい。

 授業と言っても、体育館で3学年約450名への一斉授業。
 全員と対話することは難しい状況の中、一方的に語るものではなくワークショップ形式で、対話やワークを取り入れて進めていく。

 学びというのは「インプット」に偏りがちだが、何より大切なのは「アウトプット」だと考えている。知識を学んで終わり。であれば、何も人がやる必要はない。体験型授業で、腑に落ちる体験をしてほしいと考えている。

 今回のテーマは「自分も人も大切にするコミュニケーション」。
 自分を大切に。人を大切に。よく言われることだ。ただその意味を本当に理解しているのだろうか。どうしたら大切にできたと言えるのか、分かっている人は大人でも少ない。

 何ができたら「自分を大切にできた」って言える?そんな問いからスタート。
 大切にしたいこと、大切にしたいもの、大切にしたい人、大切にしたい考え方、自分の決めたこと…。たくさんあるが、その中でも一番伝えたかったことが「自分の気持ち」を大切にすること。

 子どもたちの感想にあったように、「自分の気持ちを大切にするなんて考えたこともなかった!」「自分の気持ちはどんな気持ちも大切だと知ってびっくりした!」という声がたくさん上がっていた。

 子どもの頃、一度や二度は「相手の気持ちを考えなさい!」そう言われたことがあるだろう。でも、「自分の気持ちを考えてね」「自分の気持ちを聴いてね」「自分の気持ちを大切にしてね」と言われた経験はほとんどないように思う。

 ここでは、日本親子コーチング協会が小学生と共同開発した「ピットインカード」を使い、気持ちを表すウサギのイラスト「フィーリングカード」を使って、自分の気持ちに近いカードを選び、隣同士で対話していく。気持ちや思っていることを伝えることが苦手な子でも、カードがあることで選びやすくなったり、選ぶこと自体を楽しめたりする。たとえ同じカードを選んでも、言うことも人それぞれ。同じものを見てもどう感じるか違うことも体感してもらう。
 また、アドラー心理学の「幸せの三条件」や「シャンパンタワーの法則(勇気の水)」を使って、自分を大切にすることは、結果的に周りの人を大切にすることにもつながることを伝える。自分のコップが空だったら、わけてあげることができないから。自分の余裕がなかったり、傷ついている状態では、人に優しくすることは難しいことに、子どもたちも気づいた様子が感想からも伺えた。
 どうしたら自分に、そして相手に、勇気の水を注いであげることができるのか?を子どもたちなりに考えていたようだ。

 他にも「自己受容」「他者信頼」「貢献感」を、10点満点で表してもらい、感じたことをまたペアで対話していくことで、自分自身をどう捉えているのかに目を向けてもらったり、気持ちの伝え方では、同じテーマで3パターンを実際に演じてみて、どう感じるかを体験してもらう。
 どう伝えると、相手を傷つけずに伝えたいことを伝えられるのか?
 この伝え方はダメだよ!この伝え方がいいよ!そう答えを与えるのは簡単かもしれない。でも、子どもたちが自分の目で見て感じて、納得した答えを出していくプロセスにとても意味があると感じている。実際に表情が変わっていく子どもたちの様子は、感想の中でもよく表れていた。自分の答えを自分で見つけていくプロセスがあるから、自己決定をしたときに責任感というものが生まれる。自分には答えを出す力があるのだと、自分を信じる力に繋がって行くことを感じている。

 たった45分の授業だが、この時間を体験することで、彼らが自分も人も大切に日々を過ごすきっかけになることを願って。

中高生の心を開く専門家/ライフコーチ三橋亜希子
各地の小・中学校、高校、幼稚園などで児童・生徒向け、教職員向けの講演を続ける。幼少期に父親から虐待を受け、学校では、いじめの標的になった経験を持つ。成人後も、自分の思うような生き方ができなかったが、東日本大震災をきっかけにコーチングを学び、独立。3兄弟の母。ホームページ(https://mitsuhashiakiko.com/)に情報多数。

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