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サトー先生の「きょういく日めくり」~きょうも楽しく学校へ行くために~【第4回】

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論説・コラム

あのセンセの授業、わかるネン

 初任で勤めた新設校は、教員平均年齢20代、同期の初任者が9人もいた。
 中学で「あの高校なら合格する」と言われ入学した生徒たちは、遠方より電車バス乗り継いで来るから遅刻欠席が増え、入学時の50人が卒業時は各クラス30人を切る。教員不信が激しく、廊下の両端にぺたーっと座り込む彼らを注意すると、ぼくの目前3センチにまで顔近づけてきて「なんやネン」。
 授業始めるまでがまたたいへんだ。教員総出で教室に入れ、席に座らせるまで、毎回、胃が痛くなるやりとり。持って来ない(持ってない?)から、教科書は使えず、必然、プリント授業。一話完結型プリントの作り方や授業の時間配分、さまざまなパターンの「導入」など、鍛えられた。
 この、見た目サイアクで、まちで目も合わせたくない人たちとのたった3年間が、大学出たてのぼくをしっかり「教員」にしてくれた。「しんどい」環境のなかで生きてきた彼らと、30数年たった今もときどき会って語り合う。

 あの頃、「立ち歩き常連のOくん」が、3学年主任のK先生(国語科。小柄な50代女性)の授業はしっかり座って受けているときいた。
(どんな魔法を使った授業なんだろう?)
 ストーカー並みに、教室外の廊下から何度か参観した。すると、大声を出すわけでもない、教科書使用のオーソドックスな授業なのだ。なのに、日ごろボクの授業は歩き回るOくんが、前向いて座って聞いている(ズルイぞ!)。

 授業が終わって、Oくんに「なんでK先生の授業は聞いてるの?」と尋ねると、Oくん、顔をぼくに近づけるわけでもない、素直な表情で言い放った。
「だって、あの先生の授業、わかるネン」
 以後、授業づくりに全霊かける毎日。

佐藤功(さとう・いさお)
大阪府立高校教員として33年。酒と温泉と生徒ワイワイ……「生涯現場の一担任」のはずが、生徒や保護者とのわちゃわちゃ大好きを見込まれ、気がついたら大阪大学教職担当初代教授(人間科学研究科所属)。教職志望の学生たちと地域活動やら探究活動やら、日本全国を駆けまわり、現職は「一般社団法人NEOのむら」理事。最近、「国内旅行業務主任」の資格も取ったらしい。著書に『教室の裏ワザ100連発』『気がついたらボランティア』(学事出版)『はじめてつくる「探究」の授業(編著)』(大阪大学出版会)など。「おまかせHR研究会」主宰。

サトー先生の「きょういく日めくり」