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交通安全への強い眼差しー交通遺児育英会の使命ー【第5回】

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論説・コラム

「高校奨学生と保護者のつどい」と「語らいカフェ」

 「同じ経験や境遇の人たちの講演を聴いたり、懇談会で意見交換できた」「学生寮(心塾)や他事業・制度について知ることができた」「辛い経験をしたのは自分だけでないと、気持ちが少し楽になった」「同郷・同地区の友だちと交流ができた」「初対面の人と話すきっかけになった」(広報紙「君とつばさ」令和5年10月10日号:「高校奨学生と保護者のつどい」参加のアンケートからの言葉)

 つどいは、そもそもは高校奨学生と保護者が集(つど)って交流する場としてスタートしました。
 つどいでは、奨学生と保護者それぞれお一人に交通事故被害体験をお話ししていただきます。このお話を聴くことや、そのあとのフリートークによって、このような辛い体験が自分だけじゃなかったんだと悲しみ、寂しみの感情を共有することから癒しの場となったり友達づくりの場となったりします。
 しかしながら本会設立翌年の昭和45年のスタートから当初2回は保護者も参加する形だったのですが、3回目からは保護者の参加は無く高校奨学生のみの参加となりました。
 当時の経営の考えを解明するわけにもいきませんが、今我々が考えるにそのような保護者抜きのつどいはつどいの価値を半減させるものであると思います。
 保護者の参加がないつどいは平成5年まで24年間続き、いろいろな混乱により平成6年から平成10年にわたり5年間の中断となってしまいました。
 平成11年には、混乱を収束させ再開にこぎ着けましたが、再開後のつどいで私たちが一番重視したのは保護者の参加です。
 冒頭で紹介しました奨学生、保護者それぞれの代表による事故被害体験の講演の後、保護者は保護者同士で約2時間余の懇談の場を設けてフリーにお話し合いをしていただきます。
 その間、高校奨学生は奨学生同士でインストラクターの指導のもとゲームで走り回って楽しみます。
 保護者の参加にどのような意味があるかと申しますと、事業の改善、改革のヒントとなるような様々な発言を聞くことができるということです。
 これまでそのような発言にヒントを得て多くの事業の改善、改革をすることができました。
 数えればきりがありませんし、前回までに紹介したこととダブる部分もありますが、大きなものをあげてみます。
 まずは、学生寮心塾東京寮の開設です。「東京は大学が一番多くて、学生が一番多いのだから、何とか東京に学生寮をつくって、奨学金だけで学生生活が送れるようにしてほしい」という保護者の皆さんの声が発端でした。
 学生寮心塾関西寮も同様「東京に次いで学校が多く、学生が多いのは関西です。関西にも寮をつくってください」という声に従って開設をすすめました。
 現在の東京寮、関西寮の利用者はほぼ同数で、合わせて100名弱です。
 平成29年から開始した家賃補助も保護者の皆さんの声からスタートしています。
 令和6年度からは浪人生への支援を開始しますが、これは令和5年度夏の高校奨学生と保護者のつどいにおける保護者の皆さんからの要望に端を発しています。
 そのほかつどい等で保護者の方々との会話から気付いて必要と判断した支援に各種資格試験受験費用補助があります。
 すでに紹介しました自動車運転免許取得費用の補助がありますし、令和6年の年明けの理事会では、令和6年度から英検受験費用について補助することを決めました。今後さらに補助する資格の範囲を拡大していく準備をしています。
 ここに数例示しましたように、保護者の意見が事業の改善、改革を進めるのです。
 最後にもう一つ、コロナ禍において高校奨学生と保護者のつどいという大集会をどうしたのか、補足させていただきます。
 当時あちこちで開催されて話題となっていた哲学カフェに注目しました。これに関する本も読んでみてこのような規模、形の談話会ならできると考えました。
 すでに令和4年度に入っていましたが、地域ごとに小規模な保護者の懇談会をしようと企画し、“語らいカフェ”と名付けて11月に名古屋(16人参加)で初回を開催、12月には福岡(8人参加)と2回開催しました。以後、年5~6回ペースで各地で開催しています。保護者の皆さんにとっては自由な交流の場であり、私たちへの注文の場ともなっています。

石橋健一(いしばし けんいち)
公益財団法人 交通遺児育英会 会長
1942年生まれ。北海道大工学部卒業後、日新製鋼入社。呉製鉄所エネルギー技術課、本社人事部などを経て、1996年交通遺児育英会出向。事務局長、専務理事、理事長を歴任し2023年6月より現職。

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