令和6年通常国会「質問主意書」から【第2回】
NEWS国会議員が国会開会中、政府に対して文書で質問する「質問主意書」。開会中の通常国会でも、教育に関する課題を浮き彫りにし、政府の考えを引き出そうとする質問が出ている。2月9日には、石垣のりこ参院議員(立憲)が「素手でのトイレ清掃に関する質問主意書」を提出。今年1月に、小学校の教員が児童に素手で便器まわりの雑巾がけをさせたことを紹介しつつ、政府の見解を尋ねた。
【質問】
令和六年一月二十九日熊本市教育委員会は、宿泊教室の際、高学年の児童二人に便器の周りの尿を雑巾を使って素手で拭き取らせた市立小学校の女性教諭を戒告の懲戒処分にした。
今回、処分を受けた教諭は雑巾を使わせていたが、一部の教諭の間では、素手で便器を直接磨き上げることが心も磨くことになると精神面で非常に良い影響をもたらすとして「教師の教師による教師のためのトイレ掃除に学ぶ会(便教会)」を結成して、「素手でトイレ掃除」をしている例もある。
単にトイレの清掃だけではなく、「トイレを磨けば心も磨ける」など精神修養になるからという理由で全国的にこの活動が広がっている。
一方で、コロナ禍以降感染症に対する意識の変化や知識が広がっているため、素手でのトイレ清掃に衛生面での懸念を示す声も上がっている。
一般的に便には、多くの細菌が含まれ、病原体が含まれる場合もある。また、冬から春に流行しやすい「ノロウイルス」や「ロタウイルス」などは便や吐瀉物からの飛沫等により感染するとも言われている。このため、「素手でトイレ清掃」することは感染症への感染リスクが非常に高いと考えられる。
清掃後に手をきれいに洗えば大丈夫と考える向きもあるが、ウイルスを完全に除去するようきれいに手を洗うことは思った以上に難しく、一般の方が「きれいに手を洗った」と思っても、完全にきれいな状態になっているとは言えない可能性が高い。
素手でのトイレ清掃から学ぶことが多いと主張する方がいるとしても、感染症のリスクなど衛生面、健康面での懸念を考えると素手でのトイレ清掃は推奨すべきことではないと考える。
以上を踏まえて、以下質問する。
一 小中高校の教員が児童、生徒への指導の一環として、素手でのトイレ清掃を行わせることは衛生面や感染症のリスクから非常に不適切であると考える。児童、生徒の側が自発的に素手でのトイレ清掃を行う意向を示したとしても、不快感があっても多数の意見に従わざるを得ず嫌々ながら行う児童、生徒がいると考えられるので、児童、生徒の自主的な取組であったとしても適切ではないと考える。学校における教育活動については校長や各教育委員会が判断すべき事であるとしても、政府として素手でのトイレ清掃を推奨すべきではないと考えるが政府の見解を伺う。
二 学校施設を利用して便教会と称して教員や教育関係者を対象とした研修が行われている例があるが、マスクやゴム手袋等の着用をせずに行うことで学校が感染症のクラスター発生場所となる可能性もある。よって児童、生徒への指導のみならず、教員等のこうした研修のために学校施設の利用を許可することも控えるべきだと考えるが政府の見解を伺う。
三 素手でのトイレ清掃をSNS上に投稿し精神面での効果を強調して推奨している方々が多くいるところ、衛生面での懸念が大きく、感染症のリスクが非常に高いと考えるが、厚生労働省の見解を伺う。また、このことを厚生労働省は広く注意喚起し、関係団体に対しても注意を促す必要があると考えるが政府の見解を伺う。
【答弁】
一について
御指摘の「素手でのトイレ清掃」の具体的な内容が必ずしも明らかではないが、学校におけるトイレの清掃の在り方については、御指摘の「衛生面や感染症のリスク」も踏まえ、各学校及びその設置者が適切に判断すべきものであると考えている。
二について
御指摘の「便教会と称して教員や教育関係者を対象とした研修が行われている」の具体的な内容が必ずしも明らかではないが、学校施設の利用を許可するか否かについては、その利用目的に応じて、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)等の規定に基づき、各学校及びその設置者が適切に判断すべきものであると考えている。
三について
御指摘の「素手でのトイレ清掃」の具体的な内容が必ずしも明らかではないが、トイレの衛生環境は一様ではなく、また、トイレの清掃を行うことによって一時的に手に細菌やウイルスが付着する可能性はあるものの、手洗いや消毒により感染症の感染リスクの低減が可能であるため、お尋ねの「衛生面での懸念が大きく、感染症のリスクが非常に高い」かどうかについて一概にお答えすることは困難であり、厚生労働省においては、御指摘の「広く注意喚起し、関係団体に対しても注意を促す」ことは、現時点では考えていない。