日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

エネルギー問題をどう考える?教科間連携で育む主体的・対話的で深い学びの実現【第5回】

6面記事

企画特集

企画・制作=日本教育新聞社
協力=原子力発電環境整備機構

 エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を広げていくことが重要となる。兵庫県加古川市の「エネルギー環境教育研究会かこがわクラブ」は、「既存単元にプラス1時間で、誰でも実践できる授業」をモットーに、市内の小中学校の若手教員が集う。外部の教材やICTを活用しながら、エネルギー環境教育の実践者を着実に増やしている。かこがわクラブの代表で加古川市立加古川中学校の山本照久校長に活動について聞いた。

加古川市内の有志で発足

 「エネルギー環境教育研究会かこがわクラブ」は、加古川市内に勤務する中学校社会科と理科の教員を中心に活動する研究会だ。代表の山本照久・加古川中学校長は、約20年前から社会科におけるエネルギー教育に関心を持ち「エネルギー環境教育関西ワークショップ」に所属して研究を続けてきた。
 校長として赴任した加古川中では、教頭時代に2014年から3年間、国の学習支援であるエネルギー教育モデル校として研究を行った。その後、有志の教員が研究を継続。2019年1月に正式にかこがわクラブが発足した。
 現在の会員は16人。加古川中から市内の他校へ異動した教員や小学校教員も参加する。社会科、理科、英語、数学、特別支援教育の自立活動など教科や領域は幅広い。原則として毎月第一日曜日に社会教育施設などで定例会を開催し、授業での実践事例を持ち寄り共有している。

かこがわクラブ代表の山本照久・加古川市立加古川中学校長

プラス1時間で誰でも実践できる授業を

 かこがわクラブのこだわりは「既存単元にプラス1時間で、誰でも実践できる授業」。中学校は授業や部活動・行事の指導などで多忙だ。全校挙げて取り組めるモデル校並みの研究は難しい。市内各校に勤務するかこがわクラブのメンバー一人ひとりが自律的に研究を進める必要がある。
 そこで、原子力発電環境整備機構(NUMO)が作成した基本教材や資源エネルギー庁発行の副教材を積極的に活用し、授業づくりを進めている。
 加古川中の理科・2学年では「電流の性質とその利用」の全33時間のうち、終盤の1時間でNUMOの中学生向け基本教材「高レベル放射性廃棄物について考えよう」を導入。次の授業で地層処分や処分地選定プロセスについて学べるボードゲーム「ジオ・サーチゲーム」を通じて学ぶ。まさに「既存単元にプラス1時間」にチャレンジする内容だ。
 実践後の振り返りは、かこがわクラブのメンバーに共有される。
 「事前にNUMOの基本教材で地層処分について学習していたため、スムーズにゲームに取り組むことができ、これまでの授業内容は理解できている」との感想や、「ボードゲームは話し合いのきっかけになるので、理科の授業で科学的な情報を学んだ後に社会科の授業でボードゲームを活用する方がより効果的な実践に繋がる」などのコメントは他のメンバーが実践する際のヒントになる。

実践報告はクラウド共有

 加古川市という基礎自治体を単位としているメリットも大きい。使用する教科書が同じなので定例会で持ち寄った実践の好事例を見てすぐに自身の授業に反映できる。GIGAスクール構想により整備されたクラウド環境を活用すれば、時間と場所を選ばずに情報共有も可能だ。市内の各校で共通の行事や取り組みをメンバー全員が把握しているので、定例会の予定も立てやすい。
 教員の自主的な研修を支援する加古川市の「自主研修講座」にも登録し、定例会は学校外の会場を借りて行う。メンバーも学校内とは気持ちが切り替わり、新鮮な気持ちで参加できるので集中できるという。
 「生徒たちはエネルギーの問題を最初は難しいと捉えるが、慣れてくると高レベル放射性廃棄物の処分問題などの社会課題に興味を持つ子が増えてくる。そうした生徒の気持ちの変化が先生方の研究の原動力になっている」と山本校長は話す。現場で授業を持つことはないが、これまでの経験や事例から若い教員の応援団に徹している。

市内の若手教員を中心に実践者が集う

エネルギー自給率に着目を

 山本校長は、これからのエネルギー環境教育は、エネルギー自給率を切り口に着目すべきだと指摘する。「持続可能な社会について学ぶなら『エネルギーの安定供給の確保』の視点を持った教育は必須。12・1%(2019年度)という自給率の現実を直視してこそ、電源構成のあり方や高レベル放射性廃棄物の処分問題を真摯に考えることができる」と話す。
 かこがわクラブでは今後、ICTを活用したエネルギー環境教育の授業も推進したい考えだ。加古川中の特別支援学級では、淡路島の学校とオンラインで交流し、島内の太陽光発電所や風力発電所を紹介してもらう試みなど、実践の質も幅も少しずつ積み上がっている。

NUMO 教育支援情報
 NUMOは授業研究会への活動支援や出前授業にも取り組んでいます。
 https://www.numo.or.jp/eess/
 出前授業の内容やお申し込み方法をご覧ください。随時受付中。

お問い合わせ
 原子力発電環境整備機構(NUMO)広報部
 Tel 03―6371―4003(平日10:00~17:00)

エネルギー問題をどう考える?教科間連携で育む主体的・対話的で深い学びの実現