令和2年臨時国会質疑から【第10回】
NEWS12月5日に閉会した臨時国会では、法案審議以外にも、今後、日本の教育制度をどのように改めようとしているのか議員と政府の考えが数多く示されている。主題ごとにその概要を紹介する。11月17日の参院文教科学委員会では、舩後靖彦議員(れいわ新撰組)は、公立高校入試では、定員が埋まらない学校で不合格者を出すことについて地域差があることを指摘。全国状況を調べるよう求めた。政府側は消極的な考えを示した。一方、障害のある受験生に対する合理的配慮について国が指針を作るよう求めたことに対し、政府側は検討したいと応じた。
「空き定員ある高校で不合格、地域差の把握を」
舩後靖彦議員(れいわ新撰組) 障害のある生徒の定員内不合格の問題について質問いたします。
昨年十一月二十六日の文教科学委員会において、私は、障害のある生徒の高校受験における合理的配慮と定員内不合格に関する質問をいたしました。沖縄では毎年千三百人から千五百人の定員が空いているのに百人以上の定員内不合格があり、障害や貧困、虐待などにより学ぶ環境が保障されずに、点数の取れない生徒が入学を拒否されています。
これは沖縄だけの問題ではありません。障害児の高校進学に取り組んでおられる各地の団体の情報を集めますと、十三道県で障害のある子供が定員が空いているにもかかわらず入学を拒まれています。中には、一次、二次、三次募集と落とされ続け、何年も浪人しているという実態があります。
その一方、NHKの調査によれば、二〇一九年春の受験で、分校を含む全日制公立高校のうち四三%余りに当たる千四百三十七校の学科やコースなどで定員割れが生じています。十八の道県では半数以上の高校が定員割れとなっており、定員内であれば原則不合格にしない都府県の定員割れが少ないという関連性がうかがえます。特に、長年定員内不合格者を一人も出していない東京、大阪、神奈川は明らかに低い数字です。
この数字は、定員内不合格者の数ではなく、定員割れをしている高校の数です。したがいまして、都市部と違い、通学区域を考慮して極端に高校数を減らせないなどの事情がある地方や島が多い自治体と単純な比較はできないかもしれません。しかし、原則定員内不合格を出さない方針の都府県とそうではない道府県の違いが定員割れの学校数の割合に影響していると思います。
このような状況の中、二〇二〇年の高校受験において、沖縄県の定員内不合格者数が過去最少の五十三人と、前年から半減しました。二〇一六年から一八年まで百五十人以上、一九年には百十一人の定員内不合格者がいたのにです。沖縄県教育委員会は、定員内不合格者数が減少した理由について明言していません。
ただ、私が昨年の質問で取り上げました知的障害のある生徒の三年目の受験をめぐり、定員内不合格を出さないように県の内外から要請を受け、県教委が二月の校長会で学ぶ意欲のある受験生をできる限り受け入れるようにとの通知を出した影響があるのではないかとの沖縄タイムス社の記事もあります。教育委員会が積極的に定員内不合格を出さないように各高校に指導することで数は減らせるという実績であると考えます。
大臣は、昨年の臨時国会での私の質問に対して、定員に満たない場合で不合格となった者の人数は把握していないが、合否状況の調査については実施者である都道府県教育委員会の意向も十分に勘案した上で検討する必要があるとお答えになりました。
高校への進学率は九七・八%、特別支援学校高等部を加えると九八・八%、しかも、私立高校を含め八割以上の生徒が授業料実質無償化の対象となっています。定員に満たない場合の受験生、受験者への対応のこのような地域格差を放置していることは、ほぼ高校全入時代の実態に合わないと存じます。せめて、各自治体の定員内不合格の実態、数値の把握をお願いしたいと存じますが、いかがでしょうか。
「都道府県教委の意向踏まえ、実施控えたい」
文科省初等中等教育局長 高等学校入学者選抜の方法等につきましては、実施者でございます都道府県教育委員会等の判断で決定し、各校長がその学校及び学科等の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力、適性等を入学者選抜により合否を判定することとされております。したがいまして、空きがあるから全て受け入れるということに必ずしもなっていない、すなわち、定員内不合格自体が否定されているものでは制度上ございません。
文科省としては、各実施者におきまして入学者選抜が適切に実施されることが必要と考えておりまして、その観点から、定員内不合格の実態調査の実施について、各都道府県教育委員会の意向を確認をさせていただきましたところです。
その結果、調査を仮に実施するということになった場合、二点ございますが、一つ、都道府県教育委員会それぞれの方法等により選抜されたにもかかわらず、定員内不合格の人数等が都道府県ごとの多寡のみで単純に比較されてしまうのではないか、もう一点、校長の公正な合否判断に少なからず影響を与えてしまう可能性があるのではないかなどの理由によりまして、入学者選抜の円滑な実施等に支障を生ずるおそれがあるという意見でございました。
これまで実施者の意向を確認の上で調査について判断をしたいということで御答弁申し上げてまいりましたので、ただいまのような御意見を踏まえまして、定員内不合格の実態調査そのものについては、実施は差し控えさせていただくこととしたいと考えております。
「障害ある生徒の受験、合理的配慮に指針を」
舩後議員 障害者差別解消法では、入試における合理的配慮の提供は国公立学校においては義務ですので、文科省も受験上の配慮の具体例を収集され、学校設置者への対応の要請、情報提供をしていただいているかと存じます。
中には、試験の公平性や中立性を理由に、意思疎通のための介助者、支援者、代筆者を認めないとか、あるいは認めたとしても受験生の意思疎通に慣れた者ではなく、教育委員会や受験校の初めて会う教職員が付くため、本人の意思がきちんと伝わらず、試験で不利益になる事例もありました。
また、私と同様、人工呼吸器を使い、まばたきでコミュニケーションを取るというある生徒は、記述式では幾ら時間を延長しても間に合わないため、中学校の試験では記述式から選択式の変更が認められていました。しかし、高校受験では不公平と認められていません。都道府県で対応がばらばらなのです。
そこで、御提案させていただきます。
障害のある生徒の合理的配慮については、全国の共通ガイドラインを作り、そのガイドラインにのっとり個別にその生徒に合った試験方法を決めるという仕組みは取れないものでしょうか。この提案について、大臣、お考えをお聞かせください。
「検討してみたい」
萩生田光一文科相 高等学校において、障害のある生徒が障害の状態などに応じた適切な指導や必要な支援を受けられるようにすることは大変重要であると考えています。
文部科学省では、障害のある生徒への指導における配慮として、入学試験の実施に際し、別室実施や時間の延長などの実施方法の工夫など、可能な限り配慮を行うよう都道府県教育委員会に対して指導をしているところです。
障害のみを理由に入学を拒否されることはあってはなりません。ただ、他方で、その学校が目指す教育内容に、その希望する生徒が障害の有無にかかわらず付いていけるかどうかについても考えてあげなくてはならないと思っているところでございます。
御提案のあった全国ガイドラインにつきましては、今日、先生からの御提案なので引き取らせていただいて、検討してみたいと思います。
「障害が理由の不合格、あってはならぬとのことだが」
舩後靖彦君 たとえ合理的配慮を尽くしても、試験で点数が取れなければ高校のカリキュラムを履修する見込みがなく、定員内で不合格であっても仕方がないという考え方は、高校現場にも、多くの人の意識にも残っています。残念ながら、今年の春、私が関わった沖縄や熊本でも、合理的配慮を得て二次、三次募集の面接で高校進学の意欲を自分なりの方法で示しましたが、定員が大幅に空いているにもかかわらず不合格とされてしまいました。
一方で、北海道では自閉症の障害のある生徒が、また、千葉県、愛知県でも知的障害のある受験生がそれぞれ合格しています。試験で点数が取れないという点では、さきの定員内不合格にされた受験生と同様です。
学校教育法施行規則では、高等学校長が入学者選抜により判定し、入学を許可することとされています。しかし、同規則五十四条では、児童が心身の状況によって履修することが困難な教科は、その児童の心身の状況に適合するように課さなければならないとあり、百四条で高等学校に準用するとあります。
また、今日の高校には障害のある生徒を始め様々な生徒が在籍しており、高等学校学習指導要領総則編や文科省の平成九年の通知で、教育課程の編成については、障害の種類や程度に応じて適切な評価が可能となるよう、学力検査において配慮を行うとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ることと説明されています。
具体的には、大阪府が平成十三年度に出した府立高校における障害のある生徒に対する学習指導及び評価についての通知と、それに基づいて作成した生徒さんの評価基準の事例を御覧ください。評価の在り方や評価の方法を生徒の障害の状況に即して検討、知識の量のみを測るのではなく、生徒の学習の過程や成果、進歩の状況などを積極的に評価などと示されています。
また、定時制高校では、合理的配慮という言葉がない一九八〇年代から、社会のセーフティーネットとして、勤労生徒だけでなく、学齢期に高校に行けなかった高齢者や障害者、外国籍の子供や不登校の子供など、多様な存在を受け入れ、一人一人の生徒に向き合い、各自に合わせた授業、評価方法を考えて実践してきました。
こうした取組に学んで、評価の在り方、進級の基準などの内規を弾力的に運用することは可能です。現に沖縄県教育委員会は、さきに紹介した知的障害の受験生の受験に当たり、当初、高校では特性に応じた教育課程を提供できず学びを保障できないとする見解を撤回し、高等学校においては、入学された全ての生徒に対し学びを保障する必要があると修正しました。
こうした検討をすることなく、高校での単位が履修できない、能力、適性がないとして不合格とするのは、障害に応じた合理的配慮の不提供に当たるのではないでしょうか。障害のある生徒や家族は、障害を理由に不合格とされているのではないかと懸念をしています。
大臣は、以前、障害を理由にした不合格はあってはならないとおっしゃっていました。こうした懸念を踏まえ、少なくとも障害のある生徒に対しては、障害を理由にしていないんだよと分かるように不合格の判断理由をはっきりと示すべきではないかと考えます。大臣、いかがお考えでしょうか。
「進学の可否、設置者判断でさまざまな配慮」
萩生田光一文科相 入学者選抜の結果については、本人からの請求等に基づき学力検査の得点などを開示する仕組みが設けられていると承知しており、結果の開示方法や範囲等については実施者において適切に判断されるべきものだと考えております。引き続き適切な対応を促してまいりたいと思います。
繰り返しになるんですけれど、学ぶ意欲のある子供が障害を持っていて、思うように筆記や何かで実力が発揮できない、しかし、そのお子さんを進学させるかどうかは、設置者の判断でいろんな配慮があって私いいと思うんです。
大阪府立の学校などは、まさしくこの子のためのオーダーメードの評価をつくって積極的な受入れをしているということがよく分かります。
全てオールジャパンで同じことができるかは分かりませんけれども、こういう取組の努力をしている学校の事例なども是非各都道府県にも紹介しながら、学ぶ意欲がある、ここにすごく分かりやすく、教科の到達目標、①毎日出席することと書いてあるんですね。もうちゃんと毎日来いよと。そして、しかし、静かに落ち着いて授業を受けること、板書は指示に従いノートやプリントに写し提出すること、こういうことをきちんと続けながら、自分の能力で一生懸命頑張っていくという子供たちに学ぶ機会を与えたいというこの気持ちは先生も私も同じだと思いますので、学校設置者の皆さんにいろんな例示を示しながら、一つでもいい結果が出せるようにしたいなと思っているところでございます。
(参院文教科学委員会令和2年11月17日)