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東京・青ヶ島の学校から ~日本一人口の少ない村の学校での取り組み~【第6回】

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霧の中での紅白組応援合戦

村民とともに盛り上げる運動会

 「私はダンスをがんばります。」「はじめての運動会なので楽しみたいです。」「私は走ることをがんばります。」小学校1~3年生3名の力強い開会の言葉で、令和元年の運動会は始まりました。
 今年度の青ヶ島小中学校の運動会は、荒天のため、9月15日(日)、16日(月)と順延した後、9月22日(日)にようやく開催することができました。この時期は、風速15mを超える風と激しい雨、そして深い霧が続くのが特徴です。22日も午前中は深い霧の中での開催となり、時折強い雨が降って、テントに避難する場面もありました。霧の中での運動会においては、短距離走の時には誰がスタートしたのかゴール地点からでははっきりわからないということもありましたが、応援合戦の際には、映画の1シーンを思わせる、とても幻想的な場面となりました。
 運動会の見せ場の一つが小学生、中学生それぞれの表現種目(組体操等を取込んだ創作運動)です。今年の6月と9月に、新体操の元オリンピック日本代表で東京女子体育大学教授の秋山エリカ先生に来校していただき、小学生と中学生は、それぞれ演技指導を受けました。
 小学生、中学生どちらも、曲に合わせて自分の得意技をたっぷりと披露する構成となっていました。小学生は、ダンスの中に、フラフープを取り入れ、後半は竹馬や一輪車などを組合せた演技を行いました。中学生は、ダンスミュージックに乗せて、跳び箱やマット運動等工夫して組合せた演技を次々と披露しました。少ない人数での表現種目ですが、その一生懸命さに心を打たれ保護者や村民の皆さんは大喝采でした。また、村の保育園の園児たち8名もかわいらしい表現種目や親子競技をして、会場の雰囲気を盛り上げました。
 青ヶ島の運動会は、昔から村民も参加し半ば村民運動会も兼ねて一緒に盛り上げるところが特徴です。
 事前に村民の方々に運動会の参加種目希望をとり、紅白の対戦組に分けたリストを作ります。開会式では、児童・生徒とともに入場行進をします。21種目中10種目が村民と児童・生徒がともに行う種目で、「中距離走」や「大玉転がし」、「台風の目」等を行います。また、4種目が村民のみの競技で、「パン食い競争」、「村民リレー」等があります。
 種目の一つの生徒会競技(生徒が発案した種目)では、児童・生徒がクジ箱から引いた紙に書いてある「テーマ」を読み上げます。例えば「腕時計をしている人」「青ヶ島小中学校の卒業生」などのテーマを読み上げ、それに該当する人が読み上げた児童・生徒のところに来て一緒にゴールを目指します。テーマを聞いた村民の方々は、嫌がることなく積極的にグランドに飛び出し参加してくれます。
 この様子を見ていると、大切な村の児童・生徒のために進んで参加してその場を盛り上げようという村民の「想い」と「心意気」を感じます。運動会に長年参加していただいている奥山祥美さんは、「この島で産まれ育った子も、親御さんのお仕事で転校して来た子も、島にとってはとても大切な存在です。子供たちが一生懸命演技したり、走ったり、応援したりしている姿を見ると目頭が熱くなります。また、同じ目標に向かって、力を合わせて走ったり、綱を引いたり、子供たちの成長したたくましさを感じながら共に競技できることはとても幸せなことです。」と話してくれました。
 運動会のフィナーレは、青ヶ島の伝統・文化である「環住太鼓」と「島踊り」です。また、会場の準備や片付け時には、村民がクレーン車を持ってきて校庭の入り口の門を組み立てたり、テントの運搬・組み立て・片付けも積極的に協力してくれたりします。
 村民の参加する運動会の良さについて、3年間運動会実行委員長をしてきた土屋孝博主任教諭は「村のいろいろな関係者と事前に大会運営について調整したり、種目によっては当日になって村民の方に参加をお願いできたりするのは、内地の学校の運動会ではないことで、とても責任の重い仕事ですが、やりがいを感じています。大切な休日に児童・生徒のために運動会に参加してくださる村民の方にはとても感謝しています。青ヶ島の児童・生徒がいかに大切に思われているのかがよくわかります。運動会は村にとって、児童・生徒の成長を実感できる重要な意味があるのだと思います。」と感慨深く話しています。
 人口わずか170名の村の学校の運動会は、単なる学校の運動会ではなく、村の未来を担う児童・生徒をみんなで育てようという「想い」と「心意気」のこもった運動会でした。

村民参加の紅白組綱引き

クレーン車で組み立てる木組みの門

東京・青ヶ島の学校から~日本一人口の少ない村の学校での取り組み~