自己肯定感は高くないとダメなのか
13面記事
榎本 博明 著
心理学の知見から異を唱える
書名から想像できる通り、「日本の若者は自己肯定感が低い、何とかして高めないといけない」といった声に対し、そもそも自己肯定感とは何かを心理学の知見も踏まえて解説し、そんな声に惑わされてはいけないと説く。
例えば内閣府が国際比較に用いた意識調査では、「私は自分自身に満足している」という項目で自己肯定感が測定されているが、それは違うと指摘する。誰もが納得するだろう。
また、日本では、欧米のように自信たっぷりに振る舞って自分を押し出すより、周囲から浮かないように遠慮がちで謙虚でいることに心を砕く。そうした文化差が回答傾向に表れるのは当然だと強調する。これも多くの人が感じていたことではないか。
心理学で自己肯定感に相当する「自尊感情」に関する研究から、自尊感情を「個々の出来事によって変動する一時的なもの」と「あらゆる状況を通して持続的・安定的なもの」とに分ける考え方や、このうち後者のみを自尊感情と見なすべきとする考え方があることを紹介している。著者は後者の立場から、単なる現状肯定を自己肯定感の高さと見なすべきでなく、向上心を考慮する必要があると説く。
こうした説得力のある知見に加え、「ほめるなら能力ではなく頑張りをほめる方がよい」といった実践的なアドバイスも豊富だ。
著者の熱量が伝わる入門書である。
(924円 筑摩書房(ちくまプリマー新書))
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)