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災害時における避難所のトイレ確保を推進

16面記事

施設特集

「災害用ハマッコトイレ」(貯留型マンホールトイレ)を布設する様子

災害対応力を高める市民への周知にも注力
神奈川県横浜市の「災害用ハマッコトイレ」事業

地域防災拠点となる小中学校を中心に整備
 横浜市では防災計画に基づき、2009年から避難場所に指定されている小中学校(地域防災拠点)等へ「災害用ハマッコトイレ」の整備を進めている。災害時の自助・共助・公助の連携を念頭に、避難所において既存の水洗トイレが使用できなくなった場合でも、トイレ機能を確保することが目的となる。
 「最初は地盤の弱い液状化地域から整備を始め、2023年度までに472箇所の整備を完了。残り10箇所は学校の建て替え工事などを待って進める予定となっています」と話すのは、市下水道河川局管路保全課の新田和宏係長だ。
 貯留型のマンホールトイレシステムとなる「災害用ハマッコトイレ」は、下水道管路にあるマンホールの上に便座と仮設ユニットを設けてトイレ機能を確保するため、水洗トイレに近い感覚で使用できるのが特徴。断水時でもプール水などを用いて排泄物を直接下水道管に流せるため衛生的で、かつ一般的な水洗トイレの5分の1程度で排水できることから、被災後に貴重となる節水効果も高い。
 また、貯留管1基で5台設置できるため、1回の注水で500人が利用可能。「一般的な仮設トイレと違って段差がないため、車いす利用者や高齢者でも利用しやすく、設置も1基あたり15分程で組み立てできます。しかも、仮設トイレ用の下水道管は耐震性の高い管を採用していることから、地震にも強いのが長所」と指摘。接続先となる公共下水道管の耐震化工事も、今年度中には完了する見込みだという。

市民の声を受け止めて、さらなる改良を

市職員による出前授業も実施

 市では整備と併せて、避難所において市民がスムーズにトイレ運用ができるようにするため、使用方法等についての周知にも力を入れている。発災後、市職員は公共下水道の復旧に従事するため、仮設トイレの設置・管理は避難所にいる人たちが請け負うことになるからだ。
 そのため、「地域の防災訓練に年40回ほど市職員を派遣。地域の方々と協力しながら実際に組み立て作業を行っています。また、整備した場所には利用方法を説明した看板を設置しており、QRコードからリンクできるYouTube動画の再生回数は年間1万アクセスに達しています」と説明する。
 それ以外にも、防災関連イベントへの出展や小中学校への出前授業などを通じて、「災害用ハマッコトイレ」や町の自治会などがマンホールトイレを整備する際の助成制度などの普及啓発を行ってきた。さらに、今年からはスポーツに関心の高い層への啓発を目的に、横浜F・マリノスとの連携をスタート。第一弾として日産スタジアム内のデジタルサイネージで情報発信を行っている。
 こうした市民への普及啓発や整備後の点検実施(1拠点につき5年に1回)といった災害対応力のスパイラルアップが評価され、昨年度には国土交通省の「循環のみち下水道賞(防災・減災部門)」を受賞している。
 その上で、能登半島地震後は災害時のトイレ環境を心配する市民の声が高まっていることを受け、「今年度は男性用小便器の整備を計画しています。今後も災害用トイレの確保に向けて取り組んでいきたい」と抱負を語った。

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