ジェンダーレス制服で多様性を考える 導入の背景とメリット・デメリット
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多様性を尊重する意識が広まるなか、生物学的な性別にとらわれない選択肢への関心が高まっています。日本は、男女共同参画社会の実現を目指し、性別にかかわらず誰もが個性を発揮できる環境づくりを進めています。
学校現場でも、性の多様性に対応した取り組みが行われています。その一つが「ジェンダーレス制服」の導入です。従来のように男女で着こなしが決まっている制服ではなく、生徒が自由に制服を選べます。
本記事では、ジェンダーレス制服の特徴や導入のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
ジェンダーレス制服とは
ジェンダーレス制服とは、性別に関係なく自由に着用できる制服です。
一般的に「ジェンダー(gender)」は、生物学的な性別に加えられた社会的・文化的性差を意味します。「男性だから」「女性だから」と性別を理由に求められる固定的な役割や意識を取り除くことが「ジェンダーレス」の考え方です。ジェンダーに関する問題は、教育現場に限らず、服装や髪型、言葉遣い、役割分担など、さまざまなシーンに影響しています。
ジェンダーレス制服の導入は、こうした社会的・文化的性差をなくし、ジェンダー平等や多様性へ配慮した取り組みといえます。
ジェンダーレス制服の特徴
ジェンダーレス制服は、児童・生徒の性別にかかわらず選択しやすいように、制服の色やデザインにも配慮されています。
▽ジェンダーレス制服の特徴例
・制服の色や柄、機能性を統一
・詰め襟やセーラー服ではなく、男女関係なく着用可能なブレザーを導入
・リボンまたはネクタイからの選択が可能、もしくは統一
・スラックスまたはスカートからの選択が可能
・体のラインを強調しない配慮のあるデザイン など
ジェンダーレス制服を採用している学校では、性別にかかわらず、制服を自由に選択し、組み合わせられるのが一般的です。
導入の背景と性的マイノリティに対する政府の取り組み
ジェンダーレス制服導入の背景には、性同一性障害や性的マイノリティの児童・生徒への配慮を目的とした政府の取り組みがあります。
現在、学校現場では、特有の支援体制や相談体制の充実が進められています。
ジェンダーレス制服導入の背景
平成27年4月30日、文部科学省は『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について』を通知しました。この通知には、ジェンダーに対する考え方や性的マイノリティの児童・生徒が抱える社会的不安などについて言及されています。
▽通知の背景
・性同一性障害は生物学的な性と性自認が一致しないことから社会生活に支障がある状態
・性同一性障害の人々は、偏見や差別、いじめといったさまざまな社会的不利益に直面しやすい状況にある
・性同一性障害の人が受ける社会的な不利益を解消する取り組みが必要とされる
また、恋愛対象が誰であるかを指す性的指向も含めた性的マイノリティの児童・生徒への支援が具体的に示されています。
出典:文部科学省『性同一性障害や性的指向・性自認に係る、 児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)』『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について』
性的マイノリティに対する取り組み
性自認・性的指向による悩みや不安は、性同一性障害の児童・生徒に限らず、性的マイノリティとされる児童・生徒全般に共通しています。そのため、以下のような取り組みが求められています。
▽求められる取り組み
・教職員間での情報共有
・保護者や医療機関との連携
・教育委員会による支援体制の整備
・理解を深めるための研修の実施 など
また、児童・生徒が相談しやすい環境の整備も重要です。相談体制の充実により、悩みを抱える児童・生徒が安心して相談できる環境づくりが求められています。
さらに、学校生活において、更衣室やトイレの利用、水泳・保健・体育の授業における配慮も必要です。性同一性障害の児童・生徒に対しては、自認する性別の制服の着用を認めるなど、個別の対応を行っている学校もあります。
出典:文部科学省『性同一性障害や性的指向・性自認に係る、 児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)』
ジェンダーレス制服導入のメリット・デメリット
ジェンダーレス制服の導入は、多様性への配慮だけではなく、機能性の点でもメリットがあると考えられます。
▽ジェンダーレス制服導入のメリット
・性別に違和感がある場合でも、服装による男女の区別がなくなる
・スタイルによる性別の決めつけがないため、異性にも話しかけやすい
・スカートよりもスラックスのほうが動きやすい
・スカートよりもスラックスのほうが防寒性や防犯性が高い
・時と場合によってそれぞれ好きなスタイルで生活できる など
一方で、ジェンダーレス制服には、選択の自由によるデメリットも存在します。
▽ジェンダーレス制服導入のデメリット
・周囲の視線が気になる場合がある
・制服を選択することで「性的指向・性自認のカミングアウト」につながるのではないかと懸念される場合がある など
ジェンダーレス制服を導入する際は、メリットだけではなくデメリットについても理解しておくことが大切です。
多様性に関する現状と課題
性的指向・性自認の多様性に関する国民の理解は、必ずしも十分とはいえない状況です。こうした背景から、令和5年6月に『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律』が公布されました。
この法律では、多様性に寛容な社会の実現を目的として、家庭と地域住民を含める関係者の協力を得ながら児童・生徒の心身の発達段階に応じた教育、啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保に努めることが言及されています。
出典:文部科学省『「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の公布について(通知)』
ジェンダーレス制服で「自分らしい」学校生活を
ジェンダーレス制服の導入は、すべての子どもたちが「自分らしい服装」で学校生活を送ることができる環境づくりの一つです。児童・生徒一人ひとりが自分らしく生活することで、多様性について考えるきっかけとなることも期待されています。
学校外においてもすべての子どもたちがより安心して気持ちよく生活するためには、社会全体が多様性の理解を深めることが重要です。