居場所づくりから始める、ごちゃまぜで社会課題を解決するための不完全な挑戦の事例集
16面記事
濱野 将行 編著他
多世代つなぐ事業・活動紹介
本書は全国各地の「居場所づくり」の事例を丁寧に紹介した本である。昨今、1人暮らし世帯が3割以上を占め、地域社会の人間関係が希薄化し、「困っていても誰にも頼ることができない人」が増加している。2025年には団塊の世代の全ての人が75歳以上となり、国民のおよそ5人に1人が後期高齢者となる。
そうした時代状況の中、人々の「つながり」は今後、より一層求められるのではないか。違う世代が「いる」だけで多様な広がりが生まれるのではないか。本書の著者は「居場所づくりがしたい」という切なる思いを胸に立ち上がった5人の若者たちである。著者が強調している通り、本書は成功事例集ではなく、「現在進行形で挑戦中の取り組みの事例集」であり、居場所づくりの困難と醍醐味が生々しく記されている。
本書で紹介されている事例の一つ、栃木県大田原市にある「一般社団法人えんがお」は、徒歩2分圏内に複数の空き家を借り、高齢者サロン、地域食堂、若者向けシェアハウス、障がい者向けグループホーム、学童保育、フリースクールなどを運営している。高齢者サロンとフリースクールが併設されている点など実に興味深い。居場所づくりを行っている各地の実践者同士がつながりを持ち、互いの活動を精神的に支え合っている点も印象的だ。既に居場所づくりの活動を始めている人、これから活動を始める人/始めたい人に勇気を与える一冊である。
(1980円 クリエイツかもがわ)
(井藤 元・東京理科大学教授)