電気を活用して魚を養殖する「陸上養殖」を題材にSDGsを学ぶ
13面記事
大田区立入新井第五小学校
小学校5年生社会科「これからの食料生産」では、わが国の食料生産には、食料の安定供給や安全性の問題をはじめ、様々な課題があることを学習するが、これらの問題に関心を持ち、考えを深めることは子どもたちにとって大切な学びである。このような背景のもと、大田区立入新井第五小学校では、水産業における課題解決に取り組む「陸上養殖」を題材に授業が行われた。電気を活用し、陸上の施設で魚を養殖する陸上養殖は、食の安全性や海の環境問題の課題解決に繋がる点でエネルギーやSDGsとも関連するという。食料生産をテーマにエネルギーとSDGsについても取り上げる授業が行われるということで、その様子を取材した。
大田区立入新井第五小学校(岡野範嗣校長、児童数389)は、文部科学省の教育課程実践検証協力校であり、大田区教育委員会「子どもの『生きる力』をはぐくむプログラム」の研究校として論理的・科学的な思考力の育成に注力。理数授業や様々な体験活動を実施している。
同校の馬場友博教諭は、今回、5年生の社会科で陸上養殖について学ぶ授業を実施。陸上養殖とは気候や海洋の状況変化に左右されず、安定的に魚を獲ることができる技術として注目されている。今回は、電気事業連合会(以下、「電事連」)が制作した「THE POWER OF ELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~」シリーズの「エネルギー×持続可能な水産業~陸上養殖~」の動画を活用した授業が展開された。
馬場教諭は、授業前に「子どもたちには、日本の水産業が抱える課題についても理解を深め、陸上養殖がどのように貢献するのかを考えてほしい」と話した。
馬場友博教諭
陸上養殖の巨大水槽に興味津々
授業の冒頭では、漁業の後継者不足や近年の漁獲量の低下、海上養殖における赤潮の問題など、これまでの授業で学んだ水産業の課題を振り返った。馬場教諭は「こうした課題の解決につながるかもしれない取り組みを見つけてきたので、どのように解決につながるか考えてほしい」と投げかけ、大型モニターで陸上養殖の動画を子どもたちと視聴した。
子どもたちは、建物内の大きな水槽に大量の魚が泳いでいる映像に強く惹きつけられた様子。馬場教諭は「なぜ海や川がない場所で、魚を養殖していると思う?」と問いかけ、動画教材とセットのワークシートを配布。陸上で魚を養殖するための工夫に関する設問に触れ、「エサのあげ方や働いている人の様子を意識して、動画を見て調べてみよう」と伝え、再び動画を再生した。
パソコンで魚の育成状況を24時間管理
動画では、水槽内の水温や酸素量などがコンピュータで管理され、緑のLED照明が使用されていることが紹介された。子どもたちは「緑の照明は餌をよく食べるためなんだ」「餌も機械が自動であげていたね」と発見を語り合い、「成長をパソコンで管理できるなんてすごい」と驚きを見せた。
馬場教諭は、「陸上で養殖するには、ポンプや冷却設備を動かすための電気が必要になるんだね」とエネルギーとの関連についても説明。さらに陸上養殖のメリットを考え、ワークシートにまとめるよう促した。子どもたちは様々な答えが浮かんだようで、「どこで養殖されたのか分かるので安全」「海を汚さないので環境を守れる」「漁業の担い手不足の解消になりそう」「電気の力で機械を制御して魚を育てて、食料にしていることが分かった」など、要点をつかんだ意見を発表。馬場教諭が、陸上で魚を育てる理由を解説する箇所の動画を流し始めると、子どもたちが自分の考えた答えが正しいかどうか、前のめりに視聴する様子が印象的だった。
授業の最後には、陸上養殖をSDGsの観点から考えた。「海の水を汚さないので、14番『海の豊かさを守ろう』につながる」「魚を安定供給できるので2番『飢餓をゼロに』も関係がある」と、子どもたちは積極的に意見を出し合い、持続可能な社会の実現に向けた考え方を深めることができた模様。
陸上養殖はどのSDGsに当てはまる?
動画教材専用ワークシートに記入
動画教材の活用で広がる学び
馬場教諭は、「陸上養殖は、普段子どもたちが目にする機会があまりないテーマなので、興味を持って、意欲的に取り組んでいた。新しい技術やSDGsの取り組みを知るだけでなく、それが環境問題やエネルギー問題とどう結びつくのかを考えられる、関連性がわかりやすい教材だった」と振り返る。
「動画は視覚的に理解しやすく、子どもたちにもイメージがわきやすい」とも語り、さらに「この教材を、6年生理科の『電気の利用』や4年生社会科の『電気を供給する事業』の学習と教科横断的に関連付ければ、電気をはじめとするエネルギーについても、より深く学ぶことができそうだ」と今後の活用の可能性にも言及した。
小学生向け動画教材シリーズ「THE POWER OF ELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~」
授業で活用した教材は、「THE POWER OF ELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~」シリーズの最新動画「エネルギー×持続可能な水産業~陸上養殖~」である。電事連のエネルギー・環境教育支援サイト「ENE-LEARNING(以下、「エネラーニング」)」から無料で入手できる。約13分の動画では、陸上養殖の仕組みやそのメリットについて、巨大な水槽が設置された養殖施設の映像とともに紹介。養殖で使う水を再利用することで海の環境悪化を防げることや水産資源が枯渇しつつある中で魚を安定供給できることなど、環境問題や食料問題についても解説がある。こうした取り組みが、エネルギーやSDGsとどう関連するのか、順序だててまとめられているのも特徴だ。この教材は小学校5年生の社会科のほかにも、小学校6年生の理科の単元でも使うことができる。動画とセットになっている指導案とワークシートも、社会科と理科それぞれに対応した2種類が付属。今回取材した授業でもこの指導案とワークシートが活用されていた。
「THE POWER OF ELECTRICITY」シリーズは、小学生向けに制作され、水族館、野菜工場、電気バスなど、毎日の生活や社会活動と関わりのある様々な事例を通じて、電気の役割やSDGsとの関連性を学ぶことができる教材だ。現在、これまでに6本の動画が公開。全ての動画で、授業での活用を想定した、学年・教科・単元に対応した指導案やワークシートが提供されている。そのまま授業で使うことができるので、授業の準備を効率的に進めることができるだろう。
THE POWER OF ELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~
https://fepc.enelearning.jp/teaching/thepowerofelectricity/
様々な切り口から情報をコンパクトに伝え、解説する動画教材
中学生がエネルギーについて自ら考える「エネルギーアカデミー」
新作「探究篇~私の考える日本のエネルギー~」を公開
電事連では、暮らしにかかわるエネルギーについて深く掘り下げる動画コンテンツ「エネルギーアカデミー」も提供している。2023年に公開された「エネルギーの歴史篇」に続き、新作「探究篇~私の考える日本のエネルギー~」がリリースされた。中学校の理科や社会の授業で教材としても活用できる。その内容や活用法を電事連に聞いてみた。
将来の日本のエネルギーについて自ら考える「探究型教材」
新作「探究篇~私の考える日本のエネルギー~」では、エネルギーアカデミーの生徒である「りくと」「ももか」が、本教材の監修も務めている金田武司氏とともに、電気を届ける現場の取材や、専門家へのインタビューを通じてエネルギーに関して学んでいく授業形式で展開。2人が率直な感想を述べたり、疑問を投げかけることで、動画を視聴している生徒も一緒に授業を受けている実感が持てるようになっている。
約22分の動画は、「電気を届ける工夫」「日本のエネルギー資源」「エネルギー自給率」「環境とコスト」の4つのテーマで構成。テーマごとに、専門家による詳しい解説や生徒との対話を交えながら、2050年の日本のエネルギーについて考えるヒントとなる情報が提供される。全ての話を聞いた上で、本教材の主題である「私の考える日本のエネルギー」について、最終的に火力、原子力、水力、太陽光、風力などの様々な発電方法を組み合わせる「エネルギーミックス」を、自分ならどう考えるのか。生徒が将来の日本のエネルギーについて自ら考える「探究型教材」となっている。
授業における討論の場面などでの使い方も
金田武司氏が監修し、生徒にもわかりやすく解説
エネルギー利用には様々な視点や捉え方があるため、「エネルギー」は、生徒一人ひとりが自分なりの考えや意見を持つことができる題材である。このため、本教材は、エネルギーについて考える導入教材として活用できるほか、授業における討論やディスカッションの場面で使うこともできそうだ。本動画とともに、中学校理科「科学技術と人間」の授業でそのまま使うことができる学習指導案やワークシートも公開されており、授業の目的に応じてアレンジすることも可能だ。
「エネルギーアカデミー」は、電事連のエネルギー・環境教育支援サイト「エネラーニング」にて公開。現在、「エネルギーの歴史篇」「探究篇~私の考える日本のエネルギー~」と、お笑いトリオ四千頭身が出演する「ウクライナ危機とエネルギー篇 ~日本への影響は?~」「日本を取り巻く課題とS+3E篇」の計4本が提供されている。
電事連は「本教材が、少しでも日本のエネルギーについて考え、自分なりの意見を持つきっかけになれば」と語った。
グラフを交えて理解を深める
エネルギーアカデミー 探究篇~私の考える日本のエネルギー~
https://fepc.enelearning.jp/teaching/energyacademy/
エネルギー・環境教育のポータルサイト
ENE-LEARNING(エネラーニング)
電事連では、エネルギー課題への理解を深めるエネルギー・環境教育支援サイト「エネラーニング」を運営している。本サイトでは、今回紹介した動画教材「THE POWER OF ELECTRICITY」や「エネルギーアカデミー」をはじめ、小・中学校の理科・社会科や総合的な学習の時間で活用できる以下の教材を無料で提供している。
小学生向けには、イラストやアニメーションを用いて、電気や電気をつくる仕事について学ぶパワーポイント教材「住みよいくらしを支える電気」のほか、現在小学校で必修化されているプログラミング教育のための「電気で学ぼう!プログラミング」も提供している。これは6年生理科の授業に対応したプログラミング教材となっており、プログラミングの指導や授業への導入がスムーズにいくように、プログラミングファイルや教師用手引書を含んだ教材一式がセットになっている。
中学生向けには、日本や世界の資源・エネルギーの現状、国内の産業動向や環境課題について学べる「エネルギートラベラー」、電気とSDGsの関係やSDGsの目標から見た発電方法などについて学び、考える「SDGs×電気」などもある。
このほかにも、配布資料の作成や板書に役立つグラフ・イラスト素材の提供、授業で活用できる教材・資料を提供するサイトなども紹介している。エネルギーをテーマとした授業を行う際には、すぐに使えて役に立つ情報が満載だ。
電気事業連合会 エネルギー・環境教育支援サイト『ENE-LEARNING』(エネラーニング)
https://fepc.enelearning.jp/