学校現場で広がる「感染症ドミノ」を防ぐ
11面記事
基本的な感染予防の徹底を促す
最新の知見を活かした環境衛生機器・用品の導入を
種々の感染症が流行する冬季。その中で、今シーズンは1つの感染症にかかり、体力が弱ったところに別のウイルスに感染する「感染症ドミノ」が多発している。この現象は免疫力の低い子どもに多いため、学校現場では基本的な感染予防に加え、環境衛生装置を活用して感染抑止に努めていくことが必要になっている。そこで、今冬における感染症の動向とともに、学校で備えたい装置・用品について紹介する。
人的努力では防ぎきれない感染抑止に
学校は多くの子どもが集まる場所であり、感染症のリスクが高い環境になる。そのため、クラスターの発生を防ぐためには、手洗い・消毒の徹底やマスクの着用、ソーシャルディスタンスといった基本的な感染対策を徹底することが重要になる。
とりわけ、30人規模の子どもたちが密集する教室は、咳やくしゃみで飛沫が飛び交うことでウイルスや細菌が簡単に伝播するため、常時もしくは30分に1回以上は2方向の窓を同時に開けて換気を徹底し、できる限り1000ppm相当の換気に取り組むことが求められている。
ただし、夏冬の気候条件が厳しい日にはそれも難しい状況がある。近年の校舎は新築・改修時にエアコン設置と併せて、換気扇や全熱交換器などの空気調和設備を整備することが標準化しているが、大半の老朽化した校舎には備えられていない。したがって、学校現場の不安を解消し、コロナ過より続く教職員が行う感染防止対策の負担軽減につなげる意味でも、最新の知見に基づいた環境衛生装置・用品の導入をさらに進めていくことが必要になっている。
教室の換気対策設備が不十分
実際、昨年7月末時点での文科省「公立学校における換気対策設備の設置状況」の調査結果によれば、二酸化炭素濃度を測定できるCO2モニターを全普通教室に設置している学校は、2年前の調査から26・1ポイント増えて46・1%。室内の喚起を促すサーキュレーターは、13・9ポイント増の40・4%となっており、いずれも半分に満たない。また、空気中のウイルスやバクテリアを除去する高性能なHEPAフィルタ付空気清浄機も、1台のみ設置している学校が16・2%。2台以上が42・8%、全普通教室が16・5%にとどまっている。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、ようやく整備を進める学校が増えているものの、いまだ十分とはいえないのが実態だ。
このような人的努力だけでは防ぎきれない感染抑止に役立つ環境衛生装置には、ほかにも手指消毒ディスペンサーや自動水栓、適度な湿度を保持し肌や喉の乾燥を防ぐ加湿器、人体に無害な紫外線を使用してウイルスの数を減らす紫外線照射装置などがある。また、屋内運動場や廊下では、熱中症予防として導入が増えている大型扇風機による換気が有効になる。
感染症ドミノにかかりやすい状況
子どもに多い「感染症ドミノ」。学校での健康観察により注意を払う必要がある
もう一つ、学校の環境衛生を向上する装置の導入が必要になっているのは、新型コロナウイルスの活動制限が明けて以降、これまで抑制されてきた種々の感染症が季節を問わず流行するようになっていることがある。
昨年もインフルエンザや溶連菌に始まり、マイコプラズマ肺炎が8年振りに流行。夏季に入ると全国各地で手足口病、りんご病などが同時多発的に広がった。さらに、毎年冬季に流行するインフルエンザの患者数は、昨年の12月下旬に医療機関あたり64・39人と統計を取り始めて以来、最多を記録。それを追いかける形で新型コロナウイルスの患者数も増加した。
こうした中で、体力が弱った状態で次々と別の病気にかかる、いわゆる「感染症ドミノ」への警戒を疎かにできなくなっている。例えばインフルエンザA型からインフルエンザB型に、インフルエンザから新型コロナウイルスやノロウイルスに、あるいは、これらが同時に感染するケースも出てきている。
医師へのアンケートでも約半数が、コロナ禍以降は感染症に繰り返しかかる患者が増えていると答えており、その原因を消毒やマスク対策の徹底により、感染症に対する免疫が十分に育っていないことを挙げる声が多い。それゆえ、免疫力が低い子どもをあずかる学校現場では、複数の感染症が継続的に流行しているケースもめずらしくなくなっている。複数感染が続くと、肺炎や気管支炎へとつながる場合が多く、特に子どもは重篤化しやすい傾向にある。
子どもに増えている「インフルエンザ脳症」
このような「感染症ドミノ」を防ぐためには、インフルエンザ等のワクチン接種とともに、早期に医療機関で適切な治療を行い、他の感染症の発生を防いでいくことが重要になる。一度ゆるんでしまった感染予防意識を再び高めるためにも、学校ではこうした傾向があることを教職員に周知した上で、子どもたち・家庭に知識を広め、予防意識を高めることが大切といえる。
また、今シーズンはインフルエンザにかかった子どもにけいれんや意識障害などが起きる「インフルエンザ脳症」の報告が増えている。初期対応が遅れると、脳への損傷が進行するリスクが高まる。このため、発熱した場合は首筋やわきの下など太い血管を通る部分を保冷剤などで冷やして高熱にならないようにすることや、脱水症を防ぐために経口補水液などでこまめに水分補給を摂ることが大切になる。
記録的な乾燥が続く今年
現在(2月下旬)の感染症の流行状況は、インフルエンザや新型コロナウイルスが下降傾向になり、代わってノロウイルスなどの感染性胃腸炎や咽頭結膜熱、RSウイルス、水ぼうそうなどが上昇している。
今年の冬は関東圏を中心にほとんど雨が降らず、ずっと記録的な低湿度の状況が続いていることから、なおさら警戒はゆるめられない。空気が乾燥すると、口や鼻の呼吸器系の粘膜も乾燥し、風邪などの感染に対する防御機能が低下してしまうため、ウイルスが体内に入りやすくなるからだ。流行し始めたRSウイルスは、2歳までに一度はかかる呼吸器の疾患だが、近年では小学生以上でもかかることが多くなっている。
春先にかけて注意したいノロウイルス
中でも、これから春先にかけて注意が必要なのが、乾燥や低温に強く、感染力も強いノロウイルスだ。1月末に千葉県鎌ケ谷市で小学校の児童と職員合わせて170人余りがおう吐や下痢などの症状を訴えたのを皮切りに、仙台市の小学校で147人、北九州市の小学校で36人、福岡市の保育施設で41人など、全国各地の保育・学校施設で集団感染が相次いで発生している。
主な症状は吐き気、おう吐、下痢、発熱、腹痛。感染すると突然のおう吐や水のような下痢が数日続く。その過程で、特に子どもは脱水症状に陥ることがあり、重症化する場合もある。学校で子どもがおう吐した場合は、二次感染による集団感染を防ぐことが最も重要になる。乾燥すると空中に漂うことでウイルスが口に入って感染するため、手袋やマスクをした上で塩素系の消毒薬を使って安全に処理すること。加えて、室内の窓を開けて換気をするとともに、ドアノブやテーブル、遊具、トイレカバーなど子どもがよく触れる場所を消毒することが大切になる。
コロナ禍を教訓に、今からできる備えに努める
毎日の検温は欠かせない
今後も、種々の感染症が季節を問わず流行する傾向は続くと思われる。また、グローバル化の進展や環境破壊に伴う気候変動によって、未知のウイルスが出現する確率も高まっている。例えば、昨年8月にWHOが緊急事態宣言を発令した「エムポックス(サル痘)」や、現在中国で流行している呼吸器感染症(ヒトメタニューモウイルス)などは、新たなパンデミックを引き起こす可能性が流布された。
したがって、学校においてはコロナ禍の教訓を思い出して、日々の基本的な感染予防を徹底していくこと。そして、今からできる備えとして環境衛生装置・用品等を充実させていくことが必要といえる。また、健康管理や免疫力向上のためには、バランスの取れた食事や十分な運動、良質な睡眠が大事になるということを踏まえ、子どもたちに日頃から指導していくことが欠かせない。
さらに、学校や教育委員会が感染症流行の兆候を早期に発見するには、日頃から地域の保健所等との連携を緊密にしておくこと。また、毎日の欠席状況を含めた子どもの健康状態を観察し、職員間の情報共有に務めるとともに、日本学校保健会が運営する学校欠席者情報収集システムによって、どんな症状で欠席した子どもが多いのかを把握して、注意喚起を図ることが重要になる。