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批判的思考と教育 還元主義学力論批判

14面記事

書評

ジョン・E・マクペック 著 渡部 竜也 訳
汎用性に疑問、概念定義求める

 本書は、1981年に発表された、ジョン・E・マクペック氏の著書の日本初の全訳である。この論文は日本では今に至るまであまり注目されていないが、英語圏では現在も強く支持され、2016年に再版されている。
 本書では、「批判的思考」という用語が用いられ、「批判的思考力」という用語は使われていない。その理由は、「批判的思考」とは、Aという課題で批判的に考えることができても、他の課題にそのまま還元されてできるようになる汎用的な能力ではないと捉えているからである。しかし、日本では、「批判的に考える力(能力)」を用いており、それを誰もが有するキーコンピテンシーの一つと捉え、学校教育の場で伸ばし、向上させることができると考えられている。訳者はこの考え方に強い疑問を呈し、副題に原文にはない「還元主義学力論批判」を掲げ、本書を今刊行する意義を説いている。
 現在の日本で取り組まれている、「批判的思考」を汎用的能力として育成しようとする考え方が広まった原因として、これまでの多くの研究において、「批判的思考」の概念定義が十分になされてこなかった点を挙げている。そして、その呪縛から解き放たれるために、改めて原点回帰し、「批判的思考」の定義から始めることを提案している。本書を羅針盤として、多くの学校で、批判的に思考する力を身に付けさせる教育が創造されることを期待する。
(4400円 春風社)
(新藤 久典・元国立音楽大学教授)

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