日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

一刀両断 実践者の視点から【第648回】

NEWS

論説・コラム

自殺対策と人間力

 令和7年2月10日、令和6年の児童生徒の自殺者数(暫定値)の公表を受け、「児童生徒の自殺予防に係る取組の強化について(通知)」が発出された。しかし、自殺者数の増加に歯止めがかからない現状の重大さを、多くの国民は十分に認識していない。それは、これほど多くの若者が自殺する国が他にあまりないため、実感が湧きにくいからである。
 残念ながら、今回の通知もこれまで同様、抜本的な解決には至らず、手詰まり感が否めない。つまり、根本的な原因に迫るのではなく、対処療法にとどまっている。
 スクールカウンセラーを配置しても、成果を上げているのは役職ではなく、その人の「人間力」による部分が大きい。しかし、その「人間力」を高め、鍛える場が十分に整っていないのが現状である。
 教職も心理職も知識を基に演習を行う。人間力、すなわち「この人に相談したい」「この人と一緒にいたい」と思わせる魅力を備えた人に出会う機会は極めて少ない。そのため、資格を持ち、適切に対処できても、「人として信頼し、頼りたい」と思われる存在になれていないことが課題ではないだろうか。
 「あなたに会いたい」と言われるような人になれているだろうか。私は「会いたい」と思われる存在だろうか。この問いを自らに投げかけ、人間力を見直し、鍛錬していくことが必要である。
 そうでなければ、本来、可能性にあふれ、活力に満ちているはずの若者たちが自殺へと追い込まれる現状を変えることはできないのではないだろうか。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

論説・コラム

連載