「こども誰でも通園制度」が令和8年度から本格実施 概要と実施に向けた検討事項を解説
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育児の孤立や不安を抱える家庭が増え、将来の展望を描きにくい若い世代も少なくありません。こうした現状を踏まえ、安心して子育てができる社会を目指す施策の一つとして「こども誰でも通園制度」が試行的事業として実施されています。
この制度は、育児負担の軽減と子どもの健やかな成長を支援し、就労要件を問わず未就園児が保育施設を利用できる仕組みです。今回は、こども誰でも通園制度の概要や実施内容、今後の課題について解説します。
「こども誰でも通園制度」とは
「こども誰でも通園制度」とは、保護者の就労状況にかかわらず、未就園児が保育施設を利用できる給付制度です。
令和7年度に制度化され、令和8年度から「子ども・子育て支援法に基づく新たな給付」として、全国で本格実施予定です。現在は、本格実施を見据えた試行的事業として議論や実践が進められています。
出典:こども家庭庁『こども誰でも通園制度について』『資料5 こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討状況について』
「こども誰でも通園制度」の背景
近年、核家族化や共働き世帯の増加により、育児の孤立が深刻化しています。特に、0~2歳児のうち約6割を占める未就園児の保護者は社会との関わりが少なく、悩みを抱えやすい状況です。
すべての子育て家庭に対しての支援を強化するため、令和5年12月に「こども未来戦略」が策定され、その一環として本制度が導入されました。保護者の育児負担の軽減と、すべての子どもの体験機会を確保する目的があります。
出典:こども家庭庁『家庭支援事業について』『「こども未来戦略」~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~』
「こども誰でも通園制度」の実施内容
令和8年度からの本格実施に向け、試行的事業をもとに具体的な制度設計が進められています。以下では、試行的事業における主な実施内容と設備・運営基準について説明します。
主な実施内容
対象者や利用可能時間など、主な実施内容は次のとおりです。
▽対象施設と認可手続き
・保育所、認定こども園、小規模保育事業所、家庭的保育事業所、事業所内保育事業所、幼稚園などの保育施設を対象とする
・多様な主体の参画を認める観点から対象施設は限定しない
・家庭的保育事業等と同様に市町村長による認可が必要
・子どもにとって安全・安心な制度とするため、適切な認可基準を設ける
▽対象者
・保育施設に在籍していない0歳6カ月以上満3歳未満の子ども
・0歳6カ月以下の子どもについては、伴走型相談支援事業等の支援を受けることが想定されるため、対象外とする
▽利用可能時間
・子ども1人あたり国の補助基準上限として月10時間を設定する
・自治体が独自に利用可能時間を設定することができる
▽利用方式
・定期利用(園・曜日・時間固定)または自由利用
・地域の事情に応じて選択や組み合わせ可能
▽単価・利用料
・補助単価は1人当たり850円
・保護者が負担する利用料は、1時間あたり300円程度を標準とする
・障がい児、医療的ケア児、要支援児童にかかる加算あり
出典:こども家庭庁『こども誰でも通園制度について』『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会における取りまとめ(案)』
設備・運営基準に関する事項
基本的には「一時預かり事業」と同様の設備・運営基準で実施される見込みです。
・実施方式:「通園」を前提とした仕組みを整備する一方で、障害があり通園が困難な子どもがいる居宅への保育従事者派遣も求められる
・人員配置基準:保育士以外の人材も活用しつつ、一時預かり事業の専門研修を修了した子育て支援員の活用も認めている
・設備基準:事業所類型が多岐にわたるため、試行的事業から制度化へ円滑に移行できるよう基準の整備を進める必要がある
出典:こども家庭庁『こども誰でも通園制度について』『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会における取りまとめ(案)』
「こども誰でも通園制度」と「一時預かり事業」との違い
「こども誰でも通園制度」と「一時預かり事業」はどちらも子どもを預かる制度ですが、対象や目的などが異なります。
▽一時預かり事業の実施内容
・対象者:家庭での保育を受けることが一時的に困難となった乳幼児
・利用時間:自治体により上限や設定方法が異なる
・目的:保護者のけがや病気などで一時的に家庭での保育が困難な場合に、必要な保護を行う
一時預かり事業の利用には、家庭での保育が難しい理由が必要ですが、「こども誰でも通園制度」は理由を問わず利用できる点が大きな違いです。
出典:こども家庭庁『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会における取りまとめ(案)』/内閣府『一時預かり事業』『一時預かり事業実施要綱』
「こども誰でも通園制度」の本格実施に向けて
令和8年度の「こども誰でも通園制度」本格実施に向けて、さまざまな課題解決や環境整備などの検討が進められています。
▽利用可能時間
・令和7年度の状況を踏まえ、利用可能時間の在り方を検討する必要がある
・子ども・子育て支援法に基づき、利用可能時間を法令上明確に規定する必要がある
▽公定価格の設定
・令和8年度の給付化に伴い、地域区分や加算、利用料金の在り方を検討する必要がある
・適正な人材を確保したうえで、安定的に運営ができる公定価格に設定する必要がある
▽従事者に対する研修の必要性
・保育士以外の人材が「こども誰でも通園制度」に従事する可能性があること、また通常の保育や一時預かり事業とは異なる専門性が求められることから、安全性と専門性を確保するための研修が必要である
・「こども誰でも通園制度」従事者のための研修を開発し内容を検討する必要がある
▽市町村による提供体制の設備と事業所準備
・すべての自治体が条例の制定、認可・確認手続等の準備を着実に進めていくことが求められる
・法律上、居住市町村以外の場所でも「こども誰でも通園制度」を利用できるため、広域利用の可能性を考慮し整備を進める必要がある
出典:こども家庭庁『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会における取りまとめ(案)』
子育て支援の充実に期待
働き方やライフスタイルの変化に伴い、子育て支援のあり方も見直しが求められています。令和8年度からの本格実施に向け、保育現場に関わる事業者や地方公共団体が議論を重ねて検討を進めていくことが重要です。
「こども誰でも通園制度」では、就労要件にかかわらず、すべての子どもが保育施設を利用できる機会を保障することで、子育て家庭の育児負担の軽減を図るとともに、子どもたちが多様な環境での経験を通じて心身の発達・成長を促すことが期待されています。