江戸教育思想史
16面記事山本 正身 著
政治・文化・生活とも関連付け
本書は、265年余り続いた江戸時代において活発に展開された人間形成の学としての教育思想を通史的に叙述した750ページを超える大著である。
登場する多数の教育思想家の生い立ちや人物交流、教育的営為が一次資料を基に丹念に記述されており、教育思想の神髄についてリアリティーを持って理解することができる。
また、江戸の前期・中期・後期の社会状況が紙幅を取って記述されており、それぞれの教育思想の成り立ちや意義について、政治・経済・文化・生活様式などの文脈に位置付けて理解することが可能となっている。
著者は、江戸の教育思想の主軸を成したものを三つ挙げている。第一は、自学・自得を旨とする朱子学(17世紀)。第二は、武士の人材養成と民衆教化に二分した荻生徂徠の徂徠学(18世紀)。第三は、内憂外患の時代に国体観念を中核とした後期水戸学(19世期)。
それと同時に、各時期には、それらの主軸の教育思想に対峙したさまざまな教育思想が巻き起こり、江戸時代の教育思想が多層性・多様性に満ちたものであったとしている。
本書は、これまで注目されることが少なかった江戸時代の教育思想の豊かさを教えてくれると同時に、現在私たちが直面している日本の教育の在り方を見直す視座を与えてくれるものである。
(9900円 ミネルヴァ書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)