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音楽科教育はなぜ存在しなければならないのか 「良い音楽科教育」を構想するための目的論

20面記事

書評

長谷川 諒 著
具体例基に固有の価値に迫る

 読み応えのある専門書である。次々と読者に疑問を投げ掛けつつ、分かりやすい具体例を基に解説しながら筆を進める。
 各章の冒頭に前章までの総括がされており、思考を整理しながら読み進めることができる。
 中学生に「音楽の授業なんてなくても生きていけますよね。なぜ学校で音楽を勉強するんですか」と問われたら、どう答えるだろう。
 評者も音楽科教育に関わってきた者であるが、そう問われたとき、「音楽には、他教科にない力があるんだよ」と、震災等の被災地域に元気と勇気をもたらす音楽活動を例に持論を展開するものの、それは「音楽」の力であり、「音楽科教育」の必然を説明し切れてはいなかったと思う。
 著者は、「『良い音楽科教育』を実現するためには、教師自身が自分の言葉で『音楽科教育の存在意義』について論じることができなければならない」とし、さまざまな音楽思想を引きながら「音楽科教育に求められる公共性」と「音楽科教育固有の価値」の二つの視点から音楽科の存在意義にアプローチしている。
 そして第三章にその試論が示され、第四章にはそれを実践するために著者が開発した特定音楽文化の「良さや美しさ」に束縛されないオリジナルの手法が紹介される。一読されたし。
(2706円 明治図書出版)
(重森 栄理・広島県教育委員会乳幼児教育・生涯学習担当部長(兼)参与)

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