高校生のための古典ライブラリー 漢文名文選 史伝編
20面記事三上 英司・大橋 賢一・小田 健太 編著
史記や三国志、日本外史から
歴史的事実の記録として書かれた史伝には、執筆者の人間観や社会観も反映されており、普遍的な人間のドラマでもある。『史記』などが広く長く愛読される理由もそこにある。
本書は、中国と日本の史書から著名な逸話53篇を訓点付き漢文で収録しており、主な漢文句法、中国文化史、日本漢文文化史などの解説もある。別冊で書き下し文、現代語訳と作品鑑賞も付いており、至れり尽くせりだ。
「鴻鵠之志」(史記)、「登竜門」(後漢書)、「読書百遍」(三国志)や、信長の言葉で知られる「人生五十年」(日本外史)など有名な言葉の原典に当たるのは楽しい。また「蠡ヲ以ツテ海ヲ測ル」(海の大きさを瓢箪で測ろうとするように無益であること)、「虎ヲ画キテ狗ニ類ス」(虎を描こうとして失敗して犬に似るように、立派な人を見習ってうまくいかず軽薄な人間になること)、「覆巣破卵」(巣をひっくり返すと卵が割れるように、根本が駄目になれば関連するものも駄目になること)、「口蜜腹剣」(口はうまいが心の中は邪悪であること)など、使ってみたくなる言葉の宝庫でもある。宝探し気分で読むのもいい。
もちろん、大人が読んでもとてもためになる。「故事成語編」もあるとのこと。ぜひ、漢文の世界の豊かさや、硬質な語感の美しさを味わい、好きになっていただきたい。
(1210円 筑摩書房)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)