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増加する外国人児童生徒を誰一人取り残さない支援体制を目指して

13面記事

企画特集

写真左から、久保田啓介校長、中濵佑太主任教諭(社会科/3学年担当帰国生対応コーディネーター)、榧野真弓主任教諭(英語科/2学年担当帰国生対応コーディネーター)

見守りの共通認識を持つ

 公立学校における日本語指導が必要な外国人児童生徒の増加を踏まえ、文部科学省は自治体に対して支援体制整備等の支援を強化している。来日した外国籍の児童生徒や、両親のどちらかが日本国籍で海外から帰国した児童生徒に対して、学校現場はどのような取り組みをしていくべきか。日本語学習の機会の提供や学校生活になじんでもらうための方法などについて、東京都教育委員会指定の日本語指導推進校でもある中野区立中野東中学校の久保田啓介校長と、同校で帰国生対応コーディネーターを務める中濵佑太・榧野真弓両主任教諭に話を聞いた。

「チーム学校」で、保護者も生徒もなじめる工夫を

 ―中野区立中野東中学校(以下、東中)は以前から、両親のどちらかが日本国籍で海外から日本に帰国した生徒(以下、帰国生)や、来日した外国籍の生徒(以下、外国籍生)が多いのですか?

 久保田 統合開校前の中野区立第三中学校は、帰国子教育研究校に指定され昭和49年から帰国生教育の研究を続けてきました。現在東中に在籍する外国籍生と帰国生は全体の約13%で各学年に約20人、1クラスに4、5人ほど。合計約60名のうち約20名が日本語指導を受けています。
 外国籍生、帰国生の編入は9月にも6件ありました。初面接後に教室を連れて回ると、在校生たちは「また仲間が増えるのかな?」と歓迎ムードで垣根が低い。グローバルな感覚が育まれているのはありがたいことです。

 久保田 保護者も協力的です。通常の保護者会の前に、帰国生の保護者同士の保護者会を開催し、卒業した帰国生、外国籍生の保護者も招き年3回、悩みや不安を聞き合い、進路などの情報交換を行っています。今後はPTA活動の説明をし、会費の未納問題に取り組む予定です。日本の学校のことを知ってもらいつつ、皆で外国籍生、帰国生をしっかり見守っていきましょうという共通認識を持って、積極的に「チーム学校」に参加してくださっています。

 ―親も学校になじむことが大切ですね。

 中濵 日本語が話せない保護者には、ゆっくり話すことを心がけ、電話連絡が難しければメールやGoogle翻訳、教室で利用しているGoogle Classroomなどを駆使しています。

 榧野 子どもの日本語の理解がある程度進んだら、保護者に伝えたい内容を生徒に説明し、それを保護者に伝えてもらうなどスモールステップで。日々の連絡一つをとっても、学校との距離が遠くならないように留意しています。

母国語でも自分の考えを出せることが大事

 ―クラスへの受け入れはどのようにしていますか?

 久保田 日本の学校生活に早く親しめるように、学区域の生徒と同じクラスに入る「混入方式」を採っています。また外国籍生、帰国生に対応するグローバル委員会を設け、各学年一人ずつ帰国生対応コーディネーターの教員を配置して組織的に受け入れに取り組んでいます。

 ―帰国生対応コーディネーターの役割は何ですか?

 榧野 私たちはまず転編入時に出身国の文化背景や、その子の家庭環境や日本語力を聞き取ります。その上で、どのクラスに入れるのが良いかさまざまな視点から学年の教員で話し合います。日本語の問題、生活指導のことなど相談があれば問題提起をし、皆で一番いい方法を考えます。

 中濵 日本語指導、学習指導、学級指導、対応の仕方などについて、教員が共通理解をするための研修会を随時行っています。日本語のつまずきに関しては、私たちコーディネーターが東京都のDLA(外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント)研修で勉強したことをシェアしたり、ANIC(アニック)から講師を招いて講演してもらったり。各自がもう一歩何かできるように研鑽しています。

 榧野 ANICとは、中野区国際交流協会の通称です。週2回午前中に区の施設に移動し、少人数のグループに分かれ、日本語を学びます。東中からは10名が参加しています。生徒は区内中から集まるので、休み時間になると同じ国の子ども同士が母国語で盛り上がり、ストレス発散と安心の場にもなっているよう。ANICは日本語学習だけでなく、個々の生徒の学校生活についても見ていただけますし、行事の際などにはサポートを丁寧にしてくださる心強い存在です。

 ―普段の授業は日本語で行っているのですか?

 中濵 はい。問題の意味が分からなければiPadを使って翻訳し、場合によっては取り出し授業も行います。転編入時に保護者にアンケートで「ANICを希望」「取り出しを希望」など、学び方を選んでいただきます。

 榧野 日本語の会話がまったくできない場合は、ANICに行く前に個別の取り出し授業から始めるなど個々に合わせます。取り出し授業は週1、2回、本人が望む教科で行います。絵を見せてそれが何か答えさせるレベルから、漢字の読み書きを習うレベルまでさまざまです。ANICに通いながら、弱い部分を取り出し授業で補習する子もいます。
 日本語指導に時間をかけすぎると日本語が嫌いになる場合がありますし、友達と交流する大事な時間も削られますから、そのとき必要な学びを保護者、生徒本人、ANICの講師と相談して決めています。

 中濵 私の担当の社会科では、日本の歴史用語が特に難しいです。ストーリーも漢字も分からないので、アプリでワークシートを翻訳して、自分の考えを書いてもらいます。考えていることを表現することが一番大事なので、まずは母国語で書いてもらうところから始めます。

素を出せる場の存在が日本語学習への意欲にも

 ―宗教や文化の違いで起こりうる問題はありますか?

 中濵 給食が口に合わず登校が不安定になる、ピアスなどの異装をしてくるといった問題があります。保護者と相談をした上で、文化的背景を考慮することもありますし、日本のルールへの理解が得られれば、本人が努力できるように声かけをしながら時間をかけて対応します。
 来日後に親子関係が変化することもありました。登校しなくなったことでけんかになり、学校にやって来た親子がいました。話を聞くと、お母さんが日本に来て働き始め、忙しくて話ができなくなったという環境の変化が根底にありました。暮らす国だけでなく家庭環境も変わるのは、子どもにとって相当なストレスです。特効薬はないのですが、話を聞いて少しずつ心をほぐしていきます。

 榧野 ANICのように、自分たちの言葉で話せる場を作りたいと、ALT(外国語指導助手)と一緒に英語で語り合ったりゲームをしたりする「国際交流教室」を、年に10回ほど放課後に行っています。大きな声で笑ったり自分の意見を言ったり…子どもの別の一面が見られる貴重な場です。

 中濵 同じ言語を話すのは、人間にとって大事です。そうしてストレス発散できるからこそ、教室に帰って日本語で話すことにも前向きになるようです。

 久保田 校舎の一角に「no Japanese」のオープンスペースを設けています。昼休みには帰国生も学区域生も交じって思い切りおしゃべり。国際交流教室もオープンスペースも、語学力を落としたくないという気持ちで続けています。
 チーム学校として外国籍生、帰国生の教育に取り組むのはもちろん、併設の教育センターや区の各課に問い合わせるなど、相談の裾野を広くとることが取りこぼしのない教育につながると思っています。
 「東中でよかった」と卒業時に言ってもらえるのが何よりの喜びです。日本の学校文化にどっぷり入ってもらう東中スタイルを望んで来てくれた生徒が明るく元気な学校生活を過ごせるように、できる限りのサポートを今後も続けていきたいと思っています。

中野区立中野東中学校は、中野区立第三中学校と第十中学校が統合して平成30年に開校。令和3年には新校舎が完成し、子ども・若者支援センター、教育センター、中野東図書館を併設する知の複合施設として機能している。

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