ICT活用を推進するための自治体の在り方とは
10面記事古屋博主幹、大野貴寛指導主事
「川越授業スタンダード」に向けたICT活用
川越市教育委員会
GIGAスクール構想は学校教育に大きな変革をもたらした一方で、学校・地域間のICT活用の格差など課題も浮き彫りとなった。それだけに、次の端末更新に向けてはICT教育の推進をけん引する教育委員会が、どのような考えのもとで施策を立て、工夫を凝らして学校での活用を進めていくかが、より一層重要になっている。そこで、令和2年度に1人1台端末を導入し、授業での活用を進めてきた川越市教育委員会の古屋博主幹と大野貴寛指導主事に、これまでの取り組みと今後の展望について話を聞いた。
学校での活用を進める工夫
川越市教育委員会では令和2年度末の端末導入以降、子どもたちが安全に活用できるセキュリティーも含めた環境の整備や、ICTを授業で使うことに不安を抱える教職員への研修等を段階的に進めている。市が目指す学びの具現化となる「川越市小・中学生学力向上プラン」をベースに、川越授業スタンダードや文科省のリーディングDXスクール事業といった施策を進め、各学校でのICT活用を推進してきた。
そんな学校での活用を進めるためのツールの一つとして提示しているのは『ICTの力でe-授業(いい授業)を実現しよう』だ。これは、先生方のICT指導のレベルに応じて、授業の中でどうやってICTを使っていけばいいのかを視覚的に分かりやすく提示したもの。「授業のレベルアップには、教員も子どももICTに慣れることが不可欠。そのため、日常的にできるICT活用の例や、授業での代表的な活用方法を示し、それを実践するところから始めてもらおうと考えました」と話すのは、大野指導主事だ。本リーフレットにはQRコードが付いており、授業で使えるテンプレート集をダウンロードできる工夫を取り入れている。加えて、ICT活用事例集として5教科それぞれの領域の授業案等もQRコードから確認ができる。
『ICTの力でe-授業(いい授業)を実現しよう』の資料
子どもの自律的な学びを促すツールとして
もう一つ、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善として力を入れてきたのが『川越市小・中学生学力向上プラン』だ。ここでは、同市が目指す授業の基本形である「めあて」「見通し」「対話・協働」「練習・反復・繰り返し」「まとめ」「振り返り」により、それぞれの活動が持つ意義を理解して授業づくりを進め、学びの定着や深化を促していくことが特徴になる。
その中で、「『対話・協働』の場面では、子どもが自分で考え、友達と話し合い、お互いに高め合っていくなどの能動的な活動を創り出すためにICTの活用が求められています。例えば、子どもたちの学びを可視化する思考ツールや学び合いのツールを活用するなどです。教員はファシリテーターとしての役割を意識することで、子どもの自律的な学びを促すことができると思います」と古屋主幹は話す。
令和5年度には、家庭学習でどのような学習をするべきかをまとめた「家庭学習版」を作成。ここでも端末の持ち帰り学習の推進を踏まえ、予習・復習に活用して家庭学習の効果を高められることを訴求している。
学びのあり方を変えていく必要がある
このようなICT教育を推進するねらいには、予測困難な時代を迎える中で、自分ごととして考えて学び、行動できる子どもを育てなければならないことを挙げる。「本市の教育でも“生きる力を育み未来を拓く”を基本理念にしていますが、それには従来の教員主導型の授業を変えていく必要があると考えています。私たちはその実現に向けて学校現場に対して情報提供や研修を計画的に行っていくことや、セキュリティー対策や故障対応など先生や子どもたちが安心して使える環境を整えていくことが大事になると考えています」と古屋主幹。
それゆえ、教員研修では年6回のGIGA端末研修や夏休みのフォローアップ研修を継続するとともに、今年度には全教職員を対象にしたオンデマンド研修をスタートさせ、一人一人への働きかけを強化している。
「オンデマンド研修は一コマ15分程度に抑え、いつでもどこでも見られる利点があるため先生方にも好評です。また、リーディングDXスクールを進めた学校は、7月の情報活用能力調査でも数値が上がるなど成果が表れています」と話す。
また、教員をサポートする仕組みとして、令和2年度からは民間委託でのコールセンターと訪問支援等の業務を実施。年間で2千件以上の問い合わせが寄せられているという。
今後は教育データの利活用も視野に
これまでの取り組みで実感したのは、今までの教育にICTを付け加えようとすると負荷が大きくなり、ICTを使って学び自体を変えていこうとしている学校は伸びていることだと大野指導主事。そうした意識を教員に形成させるためには管理職のリーダーシップが大きいことから、校長限定の管理職研修を実施し、ICT活用の好事例を見せたあとに感想をまとめてもらうといった意識改革も進めている。
端末の更新では、都道府県ごとの共同調達が推奨されているが、川越市でも端末更新を進める予定だという。その中で、どの学校においても、子どもたちがICTを普段使いできる状況にする。教員に向けては教育データを利活用した個別最適化された学びや業務改善を提供できるようにするなど、デジタル化を着実に進めていきたいと意気込む。さらに、「教育委員会としても学校全体の傾向を教育データから読み取り、そのエビデンスを活かした施策を打ち出していきたいと考えています」と抱負を語った。