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それぞれの思いを込めて贈る卒業記念品

9面記事

企画特集

卒業生の心に残る贈り物を選ぼう

 「卒業記念品」は人生の門出を祝し、学校から卒業生へ贈られるものと、学校への感謝を込めて卒業生(PTA)から学校へ寄贈される2種類がある。近年では定番商品に加えて、価値観の多様化に伴って個性化を望む声も多くなっており、何を贈ろうかと頭を悩ませている学校・PTAも多い。そこで秋の訪れとともに選定時期を迎えた学校現場に向けて、今の時代にふさわしい卒業記念品を紹介する。

人生の門出を祝う、学校への感謝を込めて
卒業生への記念品はパーソナル化が顕著に

 一般的に、卒業生に贈る記念品の単価はおおむね千円~4千円未満で、学校に贈呈される記念品は私立学校を除くと10万円~30万円程度といわれ、費用は「卒対費」と「PTA予算」の両方から捻出している学校が多い。ただし、保護者の生活スタイルの違いや経済格差が広がり、卒業記念品に対する考え方も多様化する中で、1つのアイテムに絞ることが難しい状況も生まれているのも事実だ。その中で、現在の卒業記念品は次のような傾向が見られる。
 まず、学校から卒業生へ贈られるものとしては、パーソナライズされたギフトが挙げられる。近年ではインターネット通販の拡大によって商品選びの選択肢が広がっているとともに、デジタル印刷技術の進化によって名入れ加工が可能な素材が増え、しかも小ロットでも低価格で提供できるようになった。そこに個性を尊重する傾向も加わって、卒業生一人一人の名前やメッセージを刻印したり、オーダーメイドで制作したりできるノベルティの人気も高まっている。
 具体的には、小学校では名入れのボールペンやキーホルダー、マグカップ、水筒、和英・英和辞典など。中学校では本革パスケースやオリジナルTシャツなどになる。ただし、名入れには、どんなメッセージを選ぶか、文字の大きさをどうするかといったセンスが大事になる。例えば、見た目がいかにも野暮ったいアイテムも、フォント一つ変えるだけで随分とイメージが変わって見えるものであり、担当する教員にはそのあたりにも気を配って発注することを心がけてほしい。

時代に合わせたエコ素材やデジタル用品

 SDGsなど環境問題への関心の高まりから、エコバックや間伐材・リサイクル素材などを使った木製の時計やフォトフレーム、海洋プラスチックゴミを再利用したボールペンなど、地球にやさしい素材で作られたエコな記念品の需要も高い。メーカー側も、他類似商品との差別化を図るため、環境負荷の低いインクやフィルムなどを使用する、廃棄物の削減やリサイクルも可能といった高品質化への取り組みも進んでいる。加えて、卒業生の名前を刻んだ苗木を植えるといった植林活動や海洋清掃への寄付など、環境保護に貢献する取り組みをギフトにする学校もあり、注目されている。
 スマートフォンの普及やGIGA端末の導入に伴って、デジタルギフトも人気だ。USBメモリやモバイルバッテリー、充電機能付きスマホスタンドなど学習や生活に役立つデジタル機器を選択する学校も多くなっている。また、最近では音楽配信やオンライン学習サービスの利用券といった選択肢も増えている。
 近年では、卒業アルバムのデジタル化が進みクラウド上で見られるサービスへと発展しているが、改ざん防止機能が強化されたことで、卒業証書自体にもデジタル化の波が押し寄せている。今後もデジタル社会の進展とともに、これらのギフトのニーズがより一層高まっていくに違いない。

今は多様な選択肢が用意されている

物よりも、体験を重視する傾向も

 高校になると価格帯が上がり、社会に巣立つ卒業生も多くなるため、すぐに役立つ実用的なギフトが選ばれるようになってくる。文具セットや革財布、金封ふくさ、印鑑・印鑑ケースなど、社会に出てからも長く使えるものが根強い人気だ。また、私立高校の中にはブランド物の筆記用具や、カタログギフトといった、高額・高品質なアイテムを贈るところも。また、健康的な生活をサポートするフィットネス器具や、メンタルヘルスに関する書籍、コロナ禍に対応した衛生用品など、時代のニーズに合わせたギフトも選択肢に加わるようになっている。
 最近では、物よりも思い出に残る体験をさせたいというニーズも高まっている。例えば、旅行券やアウトドアなどの体験ができるイベント券もその一つ。卒業生同士で出かけられる旅行券には、メッセージカードとのセット商品やオンライン決済ができるカードタイプも用意されているほか、スキルアップ支援となるワークショップなど将来の活躍を応援する体験をギフトとして贈ることもできる。
 すなわち、卒業生に贈る記念品を選ぶ際は、卒業生の個性を尊重する、環境に配慮したものを選ぶ、将来を見据えた有意義な贈り物を選ぶ、コストパフォーマンスを考えるなどをキーワードに、考えてみることがヒントになるようだ。
 なお、卒業記念品によく使われる海外製の文具やアクセサリーなどは、円安の影響で輸入コストが上昇して価格が上がる傾向にあり、国内生産品にも波及する可能性がある。このため、今後は選べる商品の幅の縮小やデザインの簡素化、在庫不足など記念品選びに影響を与えかねない状況であることを踏まえ、なるべく早い時期に選定することが望ましい。

学校への寄贈品はICT機器や家具が人気

 卒業生(PTA)から学校へ贈られる記念品も、以前は記念樹やレリーフ、式典・行事商品が主流だったものから、時代の移り変わりに合わせて商品選びが多様化している。中でも顕著なのは、学習内容の高度化・多様化が進む中で在校生の学びに活かせるものや、学校で足りていない機器や備品などが選択されるようになっていることだ。
 ICT機器では、電子黒板や長尺印刷機、プロジェクター、複合機、タブレット保管庫、などがPTAから寄贈されることが多いが、理科における「観察・実験」機会の拡充によって、カセットコンロやデジタル顕微鏡、オシロスコープといった機器も対象に加わっている。
 また、高校を中心にデジタル人材の育成や探究・STEAM型教育を実践するための高度な設備を備えたメディアラボの設置が期待される中で、マルチタスクや映像編集が可能なハイスペックなPCやモニター、創造性を高める3Dプリンターやセンシング(画像認識や音声認識)など最先端な装置も候補に挙がるようになっている。
 あるいは、1人1台端末を使った個人やグループ、発表など多様な学習スタイルに合わせた多目的教室の整備が進む中で、フレキシブルにゾーニングが変えられるワークテーブルや椅子、ホワイトボード、パーテーションといった選択肢もある。
 そのほか、特別支援学級用の教材やテーブルなどの設備、日本語指導が必要な外国人児童生徒が増える中では、音声翻訳機のニーズも高まっている。

講演台やテントなどの定番や感染症予防

 一方で、入学式や卒業式、文化祭などで必要な式典・行事用品も根強い人気を誇っている。講演台や紅白幕、暗幕、ひな段セット、講堂用PAシステムなどの音響設備がこれにあたる。加えて、PTA寄贈品の定番となる運動会で使うテントは、近年では猛暑が厳しくなる中で、日よけやクールダウンに特化した大型テントや多目的に使えるタイプが好まれるようになっている。熱中症対策としては、暑さ指数をチェックできるWBGT測定器や熱中症危険度表示パネルといった新しいアイテムも。
 学校の記念行事・周年行事や卒業アルバム用に撮影する航空写真も、近年はドローンによる撮影が普及しており、より身近に利用できるようになっている。校舎を見下ろし、児童生徒全員が協力してつくる人文字や集合写真は、いつまでも心に残る思い出の一枚になるはずだ。定番商品としては、月行事予定板や裁断機といった学校現場での使用頻度が高い備品や、キャビネット、展示ケースなどの収納用品もある。
 コロナ禍以降は、感染症対策となる保健衛生機器・備品も学校には喜ばれる記念品となっている。空気清浄機やサーキュレーターなどの換気を促す機材、加湿器、サーモグラフィーカメラ、CO2モニターのほか、二次感染を防ぐ、抗ウイルス剤・シートや汚物処理キットなどだ。また、人体に無害な紫外線を使って除菌する装置も登場しており、放送室やスタジオなどの換気が難しい場所に投射できる装置や、図書室の貸し出し書籍を除菌する装置も隠れた人気商品となっている。

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