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社会に開かれた教育課程の実現に向けて 概要と実践例を紹介

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特集 教員の知恵袋

 現代の子どもたちは、テクノロジーの発展やグローバル化など、変化の激しい時代に生きています。変わりゆく社会に合わせて学校が地域社会と連携・協力し、子どもたちの資質や能力を育むために「社会に開かれた教育課程」の実現が重要視されています。

 子どもたちが教育を受ける課程や取り巻く環境の変化が必要とされるなかで、なぜ「社会に開かれた教育課程」が求められるのか、その背景や精度を実践例とともに詳しく解説します。

社会に開かれた教育課程とは

 文部科学省の新しい学習指導要領では、子どもたちが自ら課題を見つけ、学び、考え、判断して行動できるように「生きる力」を育むことを目指しています。その基本的な理念として『社会に開かれた教育課程』があります。『平成29・30・31年改訂学習指導要領』では、以下のように記されています。

よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にしながら、社会との連携・協働によりその実現を図っていく。

引用元:文部科学省『社会に開かれた教育課程(これからの教育課程の理念)

 この理念は、学校教育において重視すべき「資質・能力の3つの柱(知識・技能)(思考力・判断力・表現力等)(主体的に学習に取り組む態度)」や「カリキュラム・マネジメント」など、新しい学習指導要領における重要な事項の全ての基盤となる考え方ともいえます。

社会に開かれた教育課程の背景

 現代社会は、グローバル化の進展や先端技術の急速な進化など変化が激しく、将来を予測することが非常に困難です。それに伴い、将来を担う子どもたちのために、変化に柔軟に対応し、さまざまな社会問題を乗り越えていくための力を育むことが求められています。

 社会の変化に目を向け、社会とのつながりを意識しながら学校教育を展開していくことで、子どもたちが「自分の力で人生や社会をよりよくできる」と実感し、未来への希望を持つきっかけとなることが期待されています。

社会に開かれた教育課程の3つのポイント

 社会に開かれた教育課程を実現させるための重要なポイントとして以下の3つが挙げられます。

 (1)社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会をつくるという目標を学校と社会とが共有する
 (2)これからの社会を創り出していく子どもたちに必要な資質能力が何かを明らかにし、それを学校教育で育成する
 (3)学校教育を学校内に閉じずに、地域と連携協働しながら目指すべき学校教育を実現する

 これらのポイントを抑えつつ、カリキュラムマネジメントやそれを支える制度を整える必要性があります。

カリキュラム・マネジメントの側面

 カリキュラム・マネジメントは、「社会に開かれた教育課程」の実現に向け、学校教育に関わるさまざまな取り組みを組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上につなげていくことを示すものです。

 地域環境、家庭、子どもの特色をもとにそれぞれの実態に合わせた考えで学校教育目標を設定することが重要です。

▽カリキュラム・マネジメントの3つの側面

 (1)教師が連携し、複数の教科等の連携を図りながら授業をつくる
 (2)学校教育の効果をつねに検証して改善する
 (3)地域と連携し、よりよい学校教育を目指す

 カリキュラム・マネジメントを充実させるということは、新たな取り組みを追加することだけではありません。学校のさまざまな業務効率化を図り、全教職員が各学校の教育課程を理解し力を合わせることにより、カリキュラム・マネジメントの充実、社会に開かれた教育課程の実現を目指すことができます。

社会に開かれた教育課程を支える制度

 社会に開かれた教育課程の実現には、「コミュニティスクール」と「地域学校協働活動」の一体的な推進も非常に重要です。

▽コミュニティスクール(学校運営協議会を置く学校)

 ・法に基づく仕組みの一つ
 ・地域住民や保護者等が学校運営に参画し、「熟議」を通して目標を共有することにより地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていく

▽地域学校協働活動

 ・地域住民の参画を得て地域全体で子どもたちの学びや成長を支えるとともに、「学校を核とした地域づくり」を目指して、地域と学校が連携協働して行うさまざまな活動
 ・教育委員会は、地域住民と学校との情報共有を行う地域学校協働活動推進員を委嘱できる

社会に開かれた教育課程の実践例

 社会に開かれた教育課程のポイントを押さえて積極的に取り組んでいる地域があります。ここからは、実際の取り組みのなかから2つの例を紹介します。

岩手県大槌町の例

 平成23年の東日本大震災で津波による大きな被害を受けた岩手県大槌町では、震災から立ち上がり、将来を担う人材の育成を目指すために、保護者や地域住民等が学校の運営に参画するコミュニティスクールを導入しました。

▽取り組みの内容

 ・学校運営協議会で教職員と地域住民が熟議し、協働して子どもたちを育てるという目標を共有
 ・小中9年間のカリキュラム「ふるさと科」を策定
 ・地域住民の参画を得て行う「地域産業に関する学習」「防災教育」「ボランティア教育」「福祉教育」「キャリア教育」等の内容を盛り込んだカリキュラムの実施
 ・地域人材(商店経営者、漁師等)が講師となり「地域産業に関する学習」を実施
 ・町内の約70事業者の協力によりキャリア教育の一環として「職場体験学習」を実現

山口県周防大島町の例

 山口県諏訪大島町は、人口減少や地域コミュニティや文化の維持継承をどのように行っていくといった課題を抱えていました。周防大島高等学校では、島を学びの現場にして、島の魅力やよさを調査・発信したり、島の課題を知りその解決策を考えたりする「島・学・人プロジェクト」という取り組みが行われています。

▽取り組みの内容

 ・漁協や観光協会、町等と連携し、英語を使った地域貢献活動を行う
 (1)小学校への高校生出前授業
 (2)観光ガイドブックの翻訳
 (3)外国人向けの島内体験ツアーの企画と実践

 ・地元の海産物や農作物が販売される「海の市」での販売実習や運営補助を行う

 将来の地域を支える人材を育成するという目標を学校と地域が共有し、コミュニティスクールを導入することで、地域や学校の課題解決を一層進める活動がすすめられています。

社会に開かれた教育課程を実現させるために

 社会に開かれた教育課程を実現させるためには、学校だけでなく、地域住民や保護者の協力が欠かせません。コミュニティスクールや地域協働活動などを通じて、地域と学校が一体となり取り組みを進めていくことが大切です。

 また、これらを実現し将来を担う子どもたちへの質の高い教育を行うことは、よりよい社会をつくることにつながります。社会に開かれた教育課程を実現することにより、今後の学校教育へどのような影響がもたらされるのか、注目が集まります。

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