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登下校中の事故を防ぐためには

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子どもの交通事故で最も多いのは登下校中だ

交通社会の一員としての自覚や対策を身につける

 小学生の交通事故の約4割が登下校中であり、中・高校生においても自転車通学中の事故が多くなっている。いずれも、急な飛び出しや信号無視などの法令違反が大半を占めており、事故に遭った際の重症化を防ぐ自転車用ヘルメットの着用率も、依然として低いままだ。こうしたことから、学校の交通安全教育にはさらなる交通ルール順守の徹底や、交通社会の一員としての自覚や対策を身につける指導を強化していくことが求められている。

交通事故死傷者数が前年より増加

 警察庁が今年1月に発表した2023年の全国交通事故発生状況によると、交通事故死者数は8年ぶりに前年より増加し、重傷者数も前年を上回った。その要因の一つといえる車の運転中に携帯電話を手に持ち通話したり、画面を注視したりする「ながら運転」が原因の死亡・重傷事故が過去最多となっている。しかも、高齢化社会が進み、70歳以上の運転免許保有者が全体の15%を占めるようになり、アクセルとブレーキを踏み間違えるといった、運転の誤操作による予期せぬ事故も年々増えているのが実態だ。
自転車による事故死も前年より増加した。事故別では、車との出会い頭による衝突が群を抜いて多く、次いで追突、右左折時となっている。約半数が頭部を損傷したが、うち9割以上がヘルメットを非着用であった。自転車乗車中の高校生の死傷者数が極めて多くなっているのは、まさにヘルメットの着用が疎かになっているためだ。
 これまでの統計でも、自転車事故で死亡した人の約7割が頭部への致命傷を負ったことが原因で亡くなっている。また、ヘルメットを着用していない場合の致死率は、着用している場合と比較して3倍近くに跳ね上がることからも、自転車乗車時には必ずヘルメットを着用することが大切になる。

自転車用ヘルメットの着用率を高めるには

 このような重要性から、昨年4月の道路交通法の改正により、全年齢に対して自転車乗車時にヘルメットを着用することが努力義務化された。しかし、現状では違反しても罰則がないため、着用率のアップにそれほどつながっていないのが実情だ。警察庁が7月時点で都道府県ごとの「着用率」を調べた結果でも、最も高い県では60%近くに達していた一方、わずか2%あまりにとどまっている県もあり、地域ごとの差も大きくなっている。
 その中で、中高校生ともなれば自転車通学をする生徒も多くなるが、中学生の着用率は4割、高校生は1割といまだ低いままであり、学校での指導とともに自覚的に着用する意識改革が求められている。
 では、着用率を高めるにはどうすればいいか。警察庁が「自治体や学校で着用の呼びかけに取り組む地域は着用率が高くなっている」と指摘するように、前述した調査で最も着用率が高かった愛媛県では、10年前に全利用者にヘルメットの着用を勧める条例を施行しており、中高生の着用率は、ほぼ100%に達している。そうした点では、この4月から、すべての都立学校において自転車通学中に必ずヘルメットの着用を求めることにした東京都の取り組みを参考に、校則や自転車通学の条件に定めて着用率を高めていくことも有効な方法といえる。
 さらに、中高校生がヘルメットの着用を避ける理由としては、「ダサい」「格好悪い」といった見た目が影響していることが多い。それゆえ学校が採用する際には、自ら「着用したい」と感じるスポーティーなデザインのヘルメットにすることも大切になる。こうした観点から、警視庁も大学生や美容師の専門学校の関係者などとプロジェクトチームを発足。かぶりたくなるようなヘルメットの開発や、ヘルメットを着用してもくずれない髪型について考えていくことを打ち出している。

「選び方」や「かぶり方」も大事

 自転車用ヘルメットでは「選び方」も大事になる。事故に遭ったときに効果を発揮するためには、必ず試着して自分の頭に合ったものを選ぶことと、製品安全協会の「SG」や日本自転車競技連盟の「JCF」マークが付いた商品を購入すること。加えて、ヘルメットを装着するときは「かぶり方」も重要で、頭部にしっかりとフィットし、あごストラップがしっかりと締まっていることを確認してから運転しなければならない。
 したがって、学校や家庭では自転車用ヘルメットをただ買い与えればいいのではなく、なぜヘルメットを装着することが大事なのか、どのように重症化を防いでいるのかも理解させ、子どもが自発的に装着するように仕向ける必要がある。

自転車保険の加入は必須~莫大な損害賠償を請求されるケースも

 自転車は交通事故の加害者になることも想定し、万一のために自転車保険には必ず加入しておきたい。自転車による事故であっても、賠償額の計算方法は自動車やバイクによる事故と変わりはないからだ。特に、近年では自ら起こした事故によって莫大な損害賠償を請求されるケースが増えており、例えば小学生が自転車で走行中に女性と正面衝突し、頭蓋骨骨折等の傷害を負わせた事故や、高校生が夜間に無灯火で運転中に警官と衝突した死亡事故では9千万円を超える損害賠償の判決が出ている。
 こうした事例を受けて、全国の自治体では自転車保険を義務化する動きが広がっている。昨年度時点で義務化しているのは、もっとも導入が早かった兵庫県を皮切りに、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府など30都府県に達している。
 自転車通学を認めている学校では、団体向けの自転車保険に加入しているケースが多いが、個人で加入する保険よりも保険料が安いことから補償内容が限定されている場合がある。このため、補償内容や条件を確認した上で個人でも加入するなどの対策も必要といえる。

交通事故を自ら回避する力

 一方、超高齢化社会を起因とする不慮の事故や薬物や飲酒による予測できない事故が絶えない中で、子どもたちには交通ルールを順守するだけでなく、周辺の状況を常に把握し変化に気づく力や、適切な行動を選択して交通社会と向き合う力を身につけることがより一層重要になっている。
 交通事故を自ら回避するには、次の3つの力が重要になる。1つ目は状況認識力で、周囲の状況を常に把握し、変化に気づく。他の車両や歩行者の動きを予測する。死角にいないか確認する。2つ目は判断力で、状況を正しく判断し、適切な行動を選択する。危険を回避するための余裕を持つ。焦らず、冷静に行動する。これらに加えて、自転車の運転技術を磨く。緊急時のブレーキ操作やハンドル操作を習得するといった技術力を備えることが大切になる。

見通しの悪い交差点を安全に横断するには?

発達段階に応じた交通安全教育

 こうした中で学校では、体育科(保健体育科)を中心として、各教科を含めた学校教育活動全体を通じて交通安全教育を推進することが求められている。例えば、体育科において身に付けるべき例としては、小学校では周囲の危険に気づく、的確な判断の下に安全に行動する。中学校ではこれに加えて、交通事故は人的要因や環境要因などが関わって発生することについて理解を深める。高校では車両の特性の理解や交通事故には責任や補償問題まで取り上げることが示されている。
 また、通学路の安全について主体的に考える活動として、「総合的な学習の時間」を使って危険箇所マップを作成する、地域の交通事情について調査するといった取り組みは、今では多くの学校で行われるようになっている。
 子どもは年齢が低いほど危険認識や危険認知力が未熟である。だからこそ、このような発達段階に応じて危険に関する予知能力や事故の回避能力などを鍛えていくことが大切になる。

人に加え、AIで見守る時代へ

 交通安全意識を高めるには、警察などと協力した実技指導を交えた交通安全講習も欠かせない。近年では、企業・団体よる交通安全教育プログラムも各地で行われるようになっているほか、スタントマンが事故の状況を再現した模擬演技を行う講習も人気を呼んでいる。
 加えて、従来のビデオ教材だけでなく、交通事故の状況をさまざまな場面で再現できるコンピュータシミュレーターも進化。その中には三次元CGにより時間、季節、友達からの声かけなど多様な環境を再現し、道路を横断しているような体験ができるものも登場している。
 また、子どもを交通事故から守るには、スクールガードなど地域の多様な担い手による見守りが重要になるが、GPS機能やAI技術を使って危険を回避する装置も開発されている。例えばランドセルやカバンに取り付ける追跡デバイスは、子どもの位置情報を追跡し、危険な場所や状況を知らせることができる。子どもの手首などに装着するウェラブル端末は、心拍数や歩行速度などの情報を取得し、危険を察知することが可能になる。
 このような装置は決して万能ではないが、特に低学年の児童の防犯対策を含めた「危険の可視化」としては有効といえる。車自体の自動ブレーキや誤発進制御機能といった安全装置などとともに、今後のさらなる技術の進化に期待したい。

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