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一刀両断 実践者の視点から【第549回】

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家で食事できぬ子

 《児童虐待で5回も一時保護「生きるために万引きした」女性の理不尽な少女時代「一時保護所も家も地獄でしかなかった」》(CHANTO WEB)という見出しの記事は全ての教育関係者には読んで欲しい内容である。同様な状況の児童を私は担任した事があったからであり、今も鮮明に覚えているからである。
 その女子児童を担任した時に上司から、「気をつけてね。深入りしない様にね」と意味深な事を耳打ちされた。
 数日後その事が起きた。女子職員の更衣室から財布が数点盗まれたのである。T子がその前を行き来していたと言う情報があり、どの様に確かめたらいいか話し合われた。結果として良い策もなく一任された。
 演技して、「財布がなくなって免許証もなくなって困っているらしいんだ。何処かで見つけたら教えて欲しい」と伝えた。すると、「近くの神社の裏に落ちていたよ」と持ってきたのであった。
 安心と落胆が交差しながら受け取った事を思い出す。
 望まれないで生まれた子なんだよと、祖父母が話した事にも驚いたが、夕飯も食べさせてもらえない事が多いものの、その事を聴いても「大丈夫だよ。ちゃんと食べてるから」と答える。明らかに親を庇っているのである。
 直接親に会いに何度も通った。母が10代前半で妊娠し、父親はすでに70を超えている母親の叔父にあたるらしい。どう関与して幸せのレールに乗せればいいかと考えない日はなくなった。
 窃盗を止めたいと私の教卓にお金を入れて置き、「そこから使うように」とT子に伝えたが、とうとうそのお金には手をつけはしなかった。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

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