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計画的・効率的な長寿命化改修に向けて~人口動態や技術革新を見据えた計画の見直しも重要~

20面記事

施設特集

学校施設の長寿命化改良には課題も多い

「学校施設環境改善交付金」とは

 公立小中学校施設は、昭和40年代後半から50年代の高度成長期に建築されたものが多く、建築後25年以上経過した建物の面積が全体の約8割を占めるなど、建物の老朽化が大きな課題となっている。建物部材の経年劣化は安全面や機能面での不具合を引き起こすため、子どもたちが安全・安心して学習する場所としてふさわしくない。また、約9割が地域の避難所となっており、地域の防災機能強化の観点からも早急に老朽化対策に取り組む必要がある。
 こうしたことから、各地方公共団体においては2013年に施行されたインフラ長寿命化基本計画に基づき、域内の個々の学校ごとに実際の整備内容や時期、費用等を具体的に表す「学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)」を策定することが求められており、現時点までにほぼ100%近い設置者が策定を完了している。
 その上で、これらの計画を円滑かつ継続的に遂行するために事業費の一部を国が負担する制度が、「学校施設環境改善交付金」になる。
 本制度は、従来の国庫補助事業に替わって学校施設整備などを促進するため、改築や補強、大規模改造などの耐震関連経費を中心に国が交付金として地方公共団体へ交付する制度で、地方公共団体が作成した施設整備計画に基づいて実施する事業に対して、事業費の一部が交付される仕組みだ。

改修事業で交付される対象と補助率

 小中学校等の改修事業で交付される主な対象と補助は、次の通り。

 (1)改築=構造上危険な状態にある建物、耐震力不足の建物、津波浸水想定区域内の移転または高層化を要する建物等に要する経費の3分の1。また、やむを得ない理由により補強が困難な建物は2分の1にかさ上げ。防災のための集団移転促進事業に関連する学校建物の高台移転、学校以外の公共施設との複合化・集約化を行う場合、特別支援学校の教室不足解消に向けた事業(今年度まで)等に要する経費の2分の1。
 (2)大規模改造=既存の学校建物の大規模改修(断熱改修、内装木質化等の内部環境改善、トイレ改修、空調設置、バリアフリー化、防犯対策等)に要する経費の3分の1。なお、バリアフリー化、体育館への空調の新設および併せて実施する断熱性確保工事、不審者侵入防止対策(来年度まで)、特別支援学校の教室不足解消に向けた事業(今年度まで)は2分の1にかさ上げする。
 (3)長寿命化改良=構造体の劣化対策を要する建物の耐久性を高めるとともに、現代の社会的要請に応じる改修に要する経費の3分の1。学校以外の公共施設との複合化・集約化を行う場合、特別支援学校の教室不足解消に向けた事業(今年度まで)は2分の1にかさ上げ。
 (4)統合改修=学校統合に伴って実施する既存施設の改修に要する経費の2分の1。
 (5)防災機能強化=避難所として必要な学校施設の防災機能強化(非構造部材の耐震対策、避難経路・備蓄倉庫の整備、避難所指定校への自家発電設備の整備等)に要する経費の3分の1。

特別支援学校や不登校特例校に向けた施設改修にも

 その他、学校給食の開設およびドライ化など整備に要する経費の新増築は2分の1、改築は3分の1。中学校等の柔道場、剣道場等の整備に要する経費の3分の1。太陽光発電等の再生可能エネルギーの整備(太陽光パネルの設置、太陽熱利用設備・風力発電設備等の整備、太陽光パネル設置校への蓄電池の整備)に要する経費の3分の1。グラウンド等の屋外教育環境(今年度まで)、学校プール、高校の産業教育施設の整備に要する経費の3分の1。また、特別支援学校の用に供する既存施設の改修は今年度まで、「学びの多様化学校」または夜間中学の用に供する既存施設の改修に要する経費は、2027年度まで2分の1にかさ上げする。

将来を見据えた学校の適正規模の見直し

 大規模な予算がかかる学校施設の老朽化対策を、地方公共団体だけで賄うことは難しいことから、こうした国の交付金を有効に活用していく必要がある。その上で、教育環境向上と老朽化対策の一体的整備や国土強靱化、脱炭素化等の学校施設を取り巻くさまざまな課題に対応していくためには、教育委員会と首長部局との間で横断的な検討体制を構築し、個別施設計画について適宜見直しを図るなどを行い、充実させていくことが重要となっている。
 例えば、少子化・人口減少が進む中では、学校の適正規模を踏まえつつ、将来を含めた地域の児童生徒数に合わせた計画を策定することが不可欠であり、学校併合や小中一貫校の導入、他公共施設との複合化・集約化によってコストの効率化を図っていくことが進められている。また、整備方針を決めていくにあたってはモデル校を選定し、その設計内容を他の長寿命化改良計画に反映することにより、施工期間やコストの効率化を図るといった取り組みも行われている。
 加えて、近年では原料費や人件費が年々高騰しており、学校施設の長寿命化計画の策定・実行においても大きな課題が生じている。このため、文科省では建築費の単価アップといった具体的な支援も打ち出しているが、今後もさらに建築費が高騰することは避けられない状況となっている。

長寿命化とコスト削減を両立する

 こうした中で学校施設の長寿命化とコスト削減を両立させていくためには、次のような工夫を取り入れていくことが求められている。1つ目は、長寿命化計画の策定・見直しだ。ライフサイクルコストに基づいた計画策定だけでなく、維持管理費や解体費用も含めて最適な改修時期・内容を検討することで、長期的なコスト削減を図る。建築物の改修における知識やノウハウをもった専門家に依頼し、社会情勢や技術革新などを踏まえて定期的に計画を見直し、必要に応じて修正していくことも視野に入れていきたい。
 次は、予防保全を徹底することだ。施設の状態を定期的に点検し、異常を発見しだい迅速に対処することで、軽微な不具合を重大化させずに修繕費用を抑える。また、設備劣化予測に基づいて適切なタイミングで修繕を行うことで、機能低下や安全性確保のための緊急修繕を減らすことが可能になる。
 改修・修繕工事の効率化では、競争入札を徹底し、最適な価格での施工を実現する。その上で、施工管理のICT化や改修・修繕内容の標準化・モジュール化による効率化も進めていく必要がある。
 さらに、現在の学校施設改修にはより高度な技術やスキルが求められることから、今後はPFIなど民間資金を活用した施設整備事業や民間事業者による維持管理も積極的に採用し、効率的な施設整備や運営を実現していくことも重要といえる。

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