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学校施設の断熱改修を急げ!(1)猛暑から子どもたちを守る

17面記事

施設特集

埼玉県の小学校での断熱改修前と後の比較写真。窓の遮熱と天井断熱を施した結果、教室温度が6~8度も下がった。(左)未改修の教室の室内温度は35度。(右)断熱改修が済んだ教室は28度に下がった。写真提供=前 真之 東京大学大学院・准教授

エネルギーロスが大きく、エアコンがきかない

 近年、地球温暖化などの進行によって夏季の気温が上昇しており、昨年は最高気温が35度以上となる「猛暑日」の日数を更新した地域が相次ぎ、日本の観測史上で最も暑い夏になった。しかも、10月に入っても高い気温が続くなど長期化しており、東京での夏日は140日に達している。こうした気温上昇の傾向は、今後さらに進むことが予想されていることから、今や熱中症対策は国家レベルの課題となっている。
 こうした中で、学校では2018年度における政府の緊急的な施策によって、普通教室へのエアコン整備が全国一斉に進められた経緯がある。だが、その際に多くの自治体では、教室への熱侵入を防ぐ断熱性確保工事を合わせて行わなかった。
 全国的に老朽化が進む学校施設の大半は無断熱の仕様のままであり、教室は光を取り入れるために窓面積も広くとってあることから、極めてエネルギーロスが大きい。それゆえ、近年の猛暑日にはいくらエアコンの設定温度を低くしても、室温が30度以下に下がらないといった事象が起きている。とりわけ放射熱が伝わりやすい最上階の教室や日差しの強い教室は、子どもたちの健康自体が危ぶまれる事態となっている。

現場から緊急性を訴えることも必要

 このように、「我慢できる限界を超えている」教室が全国で増えているにもかかわらず、断熱改修には多額の費用がかかるため、自治体の対策が遅れているのが実態だ。そこには長寿命化改修では耐震化やライフラインの修繕が優先されていることや、「エアコンを設置したから問題ないだろう」という思いから現場の声をそれほど重く見ていない状況も垣間見られる。
 したがって、近年では子どもたちが耐え難い暑さに苦しんでいることを重く見た保護者や教職員、地元の工務店などの有志が、自前のDIYで教室の断熱改修工事を行う動きも始まっている。ただし、こればかりに頼っていては、いつになったらすべての教室が改善できる日が来るか分からない。重要なのは現場をあずかる教職員が教室を断熱改修する効果を知り、教育委員会等にもっと声を上げてスピーディーな改善を訴えていくことだと言える。
 なぜなら、学校を取材すると施設環境については与えられた環境を受け入れるだけで、運用や使い方については施設管理者任せである場合が多いからだ。例えば、新設校を訪問した際、教室を快適な環境に維持する設備が備えられているのに使用していなかったり、その存在さえ知らなかったりすることが多々ある。はっきりとメリットが享受できるエアコン設置やトイレの改修などとは違って、その意図が分かりにくい遮熱や断熱となればなおさらだ。

低コストでできる「断熱改修」

 一般的に建物を断熱化するのは、冬に暖気が外気に逃げていかないようにすることや、夏に外気からくる熱を侵入させないことが目的になる。それに対し、遮熱は夏に熱の侵入を防ぐことが目的になる。
 こうした点を踏まえ、住宅の省エネルギーが専門分野で、建物の断熱改修に詳しい東京大学大学院の前真之准教授は、古い学校施設の問題点を次のように挙げている。

 (1)天井が無断熱なので屋根の太陽光の熱がそのまま室内に侵入する。
 (2)日射遮蔽がないので、窓への日射がそのまま室内に侵入する。
 (3)外気が高温で窓開けできず、換気不良になっている。

 そのためエアコンを稼働させても室内は涼しくならず、危険な暑さになっているとともに、CO2濃度が高くなって空気も汚れていると指摘する。
 その上で、低コストで教室の温度を夏冬通して快適に保ち、キレイな空気も確保できる断熱改修方法として、「天井・壁の断熱」「窓の日射遮蔽・断熱」「換気設備」の3点セットを提案している。具体的には、天井や壁などに断熱材を入れる。窓を樹脂サッシや複層ガラス、内窓にしたり、遮光シートを貼ったりして外の熱を伝わりにくくする。換気扇に室内のCO2濃度を制御する「デマンド換気コントローラー」を設置することだ。
 実際に自身も改修に立ち会った小学校の教室では、屋根からの熱侵入が無断熱の5分の1以下になって室温が5~6度下がり、CO2濃度も基準内に収まるようになったという。

学校施設における断熱改修のポイント

断熱改修のメリット
 ・快適な学習環境の提供=夏は涼しく、冬は暖かい学習環境を提供することで、児童生徒の集中力向上や体調管理の改善が期待できる。
 ・光熱費の削減=断熱性能を向上させることで、冷暖房費を大幅に削減することができる。
 ・CO2排出量の削減=断熱改修による省エネルギー化は、CO2排出量の削減にも貢献する。
 ・防災性の向上=断熱材は、地震や台風などの災害発生時に断熱性能だけでなく、耐震性や耐火性も向上させる効果がある。

断熱改修の課題
 ・費用=断熱改修には多額の初期費用がかかる。ただし、長期的には光熱費の削減効果により、費用を回収できる可能性がある。
 ・施工期間=断熱改修には、数カ月から1年程度の施工期間がかかる。
 ・教育への影響=断熱改修工事中は、教育活動に影響が出る場合がある。

断熱改修の事例
 (1)概要=建築後40年経った木造校舎を、ZEB化を目指して大規模改修を実施。断熱材の追加や高断熱窓への交換などを行い、断熱性能を大幅に向上させた。
 効果=冷暖房費が約7割削減、夏場の室温が最大5度低下、冬場の室温が最大3度上昇。
 (2)概要=2010年築の鉄筋コンクリート造校舎のZEB化改修を実施。断熱材の追加や太陽光発電システムの導入などを行い、エネルギー収支ゼロを目指した。
 効果=光熱費が約3割削減、CO2排出量が約4割削減。

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