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新しい時代の学び舎へ再生する 学びの変容に応え、誰もがウェルビーイングで過ごせる施設へ

16面記事

施設特集

1人1台端末導入によって学習空間も見直す必要がある

 これからの学校施設は、児童生徒と教職員がウェルビーイングで過ごせる施設へと転換を図るとともに、1人1台端末を活用した多様な学びのスタイルに応える学習空間を創り出していくことが求められている。ここでは、そのためには何が必要かについて整理した。

老朽化改修と併せて教育環境を向上する

 学校施設の大半は老朽化が進み、構造体の劣化対策やライフラインの更新などを図りながら、新しい時代の学びに対応した教育環境へと造り替えていくことが必要になっている。
 そこでは、学校施設のZEB化を実現する断熱改修や省エネ設備、自然エネルギー利用の促進を前提に、個別最適な学びと協働的な学びに応える柔軟でフレシキブルな学習空間や学校家具、STEAM型教育を誘発する高度なICT環境を備えたメディアラボ、地域と共創できる空間など、従来の均質で画一化した教育環境から離れ、学校全体を創造的な学びの場へと改変する工夫が期待されている。
 また、誰もが安全・快適に過ごせる学校施設という点では、新しい生活様式に基づいた環境衛生対策を充実させるとともに、ウェルビーイングな状態を形成するバリアフリー化の推進やインクルーシブな視点を取り入れ、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶことのできるような設計計画を取り入れることが重要になっている。
 さらに、能登半島地震で再び明らかになった、地域の避難所となる学校体育館等の脆弱性を解消・改善する防災機能の強化も待ったなしの状況を迎えており、これらを長寿命化改修の中で、計画的かつ継続的に進めていく必要がある。

新しい時代の学びに対応した学習空間

 では、新しい時代の学びに対応した学習空間とはどのようなものなのか。教育スタイルの大きな変化といえるのが、1人1台端末環境が整備されたことだ。クラウドを活用して教師と子ども、子ども同士がつながることで、タブレットを片手に教室内外で学習を行ったり、多目的スペースを活用してグループ学習を行ったりすることが可能になった。
 つまり、一つの空間で一斉に黒板を向いて授業を受けるスタイルだけでなく、学びの内容や進め方によって自由に学習形態を変えられるようになったのである。これにより、子どもが主体的かつ能動的に学ぶ姿勢を伸ばし、変化の激しい時代を生き抜く、自ら考え、課題解決する力を養うことがねらいになっている。
 こうしたことから、学習空間としては、単一的な機能・特定の教科に捉われないアクティブ・ラーニング型授業が可能になるルームや多目的教室のほか、教室・廊下間に可動間仕切りを設置するなどして、多様な学びに応えられる場をつくることが奨励されている。同時に、配置する学校家具についても、多様な学習活動に柔軟に対応できる机・椅子、パーティション、収納・ロッカーの増設などが望まれるようになっている。
 併せて、図書室のメディアセンター化を進めて調べ学習等での活用を増やす、廊下や階段、中庭も含め、学校施設全体を学びの場として創意工夫のもと活用していくことも提唱されている。
 次に、快適な生活空間としては、トイレの洋式化・乾式化を進めることに始まり、特別教室等の空調設置。子どもたちがリラックスできる小空間・ベンチ等の配置や地域材など木材の活用による温かな空間づくり。省エネルギー化や再生可能エネルギーを導入し、環境教育に活用できるスペース。また、教職員がより効果的・効率的に授業の準備やさまざまな校務を行うことができる空間づくりや、休憩室・更衣室などを配置することにも視野を広げたい。
 共創空間としては、地域の人たちと連携・協働し、共に活動が展開できる空間やホールづくり。既存の面積資源を有効活用・再配分し、他の公共施設等と複合化・共用化することなどが挙げられる。

子どもたちの創造性を広げる拠点

 一方、時代が求めるSTEAM型教育を実現するため、使われなくなったコンピューター教室を大型モニターやハイスペックPC、3Dプリンターなどを備えた「メディアラボ」にリニューアルする動きも始まっている。そこではGIGA端末の性能では実現することが難しかった動画の編集や音楽制作、立体造形、プログラミング制作などに取り組むなど、子どもたちの創造性や可能性を広げる拠点となることが意図されている。
 特徴的なのは、先駆けとなった埼玉県戸田市の「STEAM Lab」しかり、民間事業者と積極的な提携を図って共同研究を進めていることだ。未来を担うデジタル人材を育成するためには、実社会で使われている技術やノウハウを活かしていくことが欠かせない。現在、文科省が進めている「DXハイスクール」事業では、こうした最先端となるICT環境が全国の高校の5分の1に整備されることになる。ここでも、産業界との連携を図り、生徒たちにとって有意義な活動拠点となることを期待したい。

インクルーシブな教育環境を

誰もが不自由なく過ごせる学び舎にしたい

 特別支援学校・学級が年々増加している中では、心身等に障害を抱える子どもが不自由なく過ごせる教育環境の整備を急ぐ必要も生まれている。しかし、インクルーシブな教育環境として不可欠なエレベーターやバリアフリートイレの設置率が低いままであり、視覚障害者や聴覚障害者向け設備の整備も遅れている。このため、文科省では既存施設におけるバリアフリー化工事について、国庫補助の算定割合を3分の1から2分の1に引き上げ、令和7年度までを目標に車いす用エレベーターや視覚・聴覚障害者向け設備を含めたバリアフリー化の加速化を要請している。
 また、近年では増加する不登校児童生徒等を受け入れる教室の配置や、特別の教育課程を編成する「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」の新設。あるいは、日本語指導が必要な児童生徒を指導する教室の配置などにも対応が迫られている。
 さらに、避難所として利用される体育館は、災害発生時から一定期間を不自由なく乗り切る環境を備えることが重要になるため、ライフラインが停止したときに備えた自家発電機・蓄電池やLPガス備蓄、マンホールトイレ、公衆Wi―Fi等の複数の通信手段の確保、緊急時の食料の供給体制など、防災機能をより一層強化していくことが必要になっている。

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