成功モデルからICT全校活用の手がかりを探る
9面記事吉田町立住吉小学校 校長 岩本幸子氏
静岡県吉田町立住吉小学校
学校現場において、1人1台のICT端末とネットワーク回線が普及したものの、地域や学校間での活用度の差が生じている実態が指摘されている。文部科学省の「リーディングDXスクール事業」に参画する吉田町立住吉小学校は「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実や、校務DXを学校全体で実現している。「教員も誰一人取り残さない」をモットーにICT端末の全校活用を実現した岩本幸子校長に話を聞いた。
町全体でICT活用を推進
駿河湾に注ぐ大井川のほとりに位置する吉田町。町内1中学校、3小学校のコンパクトさを生かし、安心して子育てができ、子どもたちが主体性を発揮できる教育環境の整備に力を入れている。
住吉小学校に1人1台端末が整備されたのはコロナ禍の前年だ。信州大学の佐藤和紀准教授をアドバイザーに迎え、プログラミング教育を入り口にしたICT活用推進に取り組んだ。緊急事態宣言下の一斉休業の際には子どもたちに課題を配信、Googleアカウントを二次元コード化してログインする方法を広めるなど、手探りでありながらも工夫して学びを止めないように努力したという。
2022年度に吉田町がGoogle for Educationパートナー自治体となったのに加え、吉田町の小中学校4校合同研修会の実施や全職教員がチャットでつながるようになったことで端末とクラウドの活用がさらに進み、現在でも公開授業等を行うなど町全体でICTを推進している。
進め方を自分で決める自由進度型の学びへ
同校の授業は、一斉講義形式ではなく、子どもが単元計画を立てるなど学び方や進め方を自分で決めていく「自由進度型」に変化を遂げている。
だが、ここに至るまでに苦労したことが多々あったという。特に大変だったのが、教員のICTスキル習得よりも「授業観」「学習観」を変えることだったと岩本校長は振り返る。「一斉授業を改善しなければと分かってはいたものの、児童に学び方を委ねることに心理的な抵抗感があり、理解できていない子がいるかもしれないのに、学習のまとめはしなくていいのかと不安な気持ちがありました」。
不安が残る中、挑戦し続けた結果、好きな方法やスタイルで学べる自由さから、子どもたちの学習する姿勢に変化が現れた。今までの一斉授業では、集中することが難しい子どもが、自ら課題に取り組み、楽しむ変化が出てきた。その姿を見て、教員の気持ちも変わってきたという。さらに、日々の学習の振り返りはクラウド上で共有されるので、教員は一人一人のつまずきや支援の手だてを考える時間が確保できた。
教員も誰一人取り残さない
授業のICT化の嬉しい副産物は、校務のDXが進んだことだ。現在では校務の多くをクラウド上で完結できるようになった。会議等の起案や議事録はその場で作成、担当者で共有し、コメントやチャットを使って短時間で完成させる。残業時間も減るなど働き方改革の面でも効果が見られた。
授業と校務の両面でICT活用を進めるために、同校では「教員も誰一人取り残さず、全員で取り組むこと」を徹底している。研修や授業公開は全員が対象だ。若手はタブレットの活用アイデアを、ベテランは教科単元の深め方やポイントを教え合う関係性を確立できたのも成功のポイントだ。「もともと学ぶことが好きな人たちの集まり。『やってみて駄目だったらまた別の方法でやってみればいい』という精神で取り組んできました。研究主任、教務主任が連携を取り、研修や会議の時間を調整してくれたことも活用促進につながりました。何より町全体がICT活用に前向きなことが、現場を後押ししてくれたと感じます」と岩本校長は話す。
岩本校長は、これからICT活用を進める場合は、校務の効率化から入ることをすすめる。「校務が楽になれば、教員が子どもたちのために時間を使えるようになります。それが実感できれば授業のICT活用も進むのではないでしょうか」と話した。