GIGAスクール構想第2期に向けた、学びを深める活用のステップとは
8面記事佐藤 和紀 信州大学教育学部 准教授
早い自治体では、端末の入れ替えが始まっている。計画的な更新・整備と同時に、自治体間の活用の格差解消も課題とされる中、児童生徒の学びを充実させるにはどのような視点が必要だろうか。信州大学の佐藤和紀准教授は、学校や教育委員会が伴走型支援を徹底し、教員一人一人が校務と授業の両面でICTを活用するべきだと話す。
現在のICT活用の現状と課題は
―GIGAスクール構想が前倒しされ全国の小中学校に1人1台端末と高速ネットワークが整備され、数年が経過しました。これからの学校現場でのICT活用について気を付ける点を教えて下さい。
佐藤 一つ目は、先生方の学び方と子どもの学び方は相似するという点です。ICT活用のための教員研修がただ聞くだけの内容では、いつまでたっても効果的な授業は実践できません。ICTを活用して子どもにどんな学び方をしてほしいのかをイメージして、それと同じような研修内容に変えていかないといけないと思います。
二つ目は、GIGAスクール構想は授業改善だけでなく働き方改革もそのねらいに含まれているという点です。授業のことだけしか想定していないと、セキュリティーを設定しすぎて学校内でしかアクセスできないといった使いづらさが生じてしまいます。
GIGAスクール構想は先生の働き方も学び方もすべてを変えていくものだという理解が非常に大事です。むしろ普段の校務でICTを使うことによって、日常的にICTに慣れることができるので、授業でも使えるようになります。業務をいつまでも紙に頼って端末を使わずにいると、授業で使うように言われてもまずできません。端末に慣れていない先生は苦手なままになってしまうと思います。
教員研修や校務を入口にしてICTに慣れる
―ICTの活用が難しい先生をどうやって変えることができるでしょうか。ICTを使うことが目的化してしまっているケースもあると聞きます。児童生徒や学校のために使うようにするにはどう働きかければよいでしょうか。
佐藤 まず教職員の間で日常的に端末を使う感覚があることが大事です。冒頭の課題を一つずつ解決していくなら、授業よりまず校務で使うのが良いでしょう。そして、先生方の学び方の体験を変えるのが良いと思います。というのも、GIGAスクール構想でできるようになったのは「学びの可視化」です。子どもたちが黒板に向かって着席し、先生が話す一斉授業では、誰が何を考えているかが見えなかったのです。ですが、端末とクラウドを使うようになり、一人一人の考え方やつまずき、進度が見えるようになりました。そうした可視化された環境の中で自己をリスキリングする体験が先生方には必要です。
―具体的な事例はありますか。
佐藤 ある学校では、先生方がオンラインで研修を受ける際に、講師の話を聞きながら、考えたことや疑問をその場でチャットに入力して話し合っています。今までは手元に端末もなく聞くだけの研修だったのが、聞きながらオンラインで話もしながら情報共有する形の研修に変わってきています。これが先生の学び方を変える体験になります。
研修をこのように受けられると、日常的にも業務や会議でチャットが活用されるようになります。
また、別の小学校では、毎日の授業の様子を教職員がメンバーになっているチャットグループに自由に投稿しています。「今日はこのような授業をしました」とか「こんなふうに使ってみました」などと。すると使い方が目で見て分かるので他の先生にも伝播していきます。
従来の研修会では、研修会の場でそれまで取り組んできた他の学年のことを知るといった感覚だったのが、今日、他の先生の授業を見に行ってその様子を写真で投稿するなど、他の学年の授業で何をしているかがその日のうちに分かるようになってきました。これも先生の学び方の変化と言えるでしょう。
授業変革までの伴走者が必要
―他の校務への活用例を教えて下さい。
佐藤 行事計画をスプレッドシートにまとめ進捗を書き込み共同編集する、起案文書は作成したらチャットにアップロードして、関係する教職員、管理職がチェックするなどがあります。そうすれば紙に印刷して回覧することなく、チャット上で確認が完結できます。
ここまで紹介してきた方法は、活用が進んでいる多くの学校で始まっています。先生方に校務のICT活用が定着すると、今度は自身のクラスや教科で同じことが始まります。さらに進むと、子どもたちとワークスペースを作って、意見や考えを投稿して共有したり、制作物を共同編集したりといったことが授業でもできるようになります。
―学校全体で推進していくには、どのような環境があると良いでしょうか。
佐藤 活用が軌道にのるまでの「伴走者」がいるかどうかが大事です。校内の研究担当者でもいいですし、教育委員会の指導主事でもいいです。たまに私のような研究者が顔を出すのはピンポイントの刺激となりますが、日常的に伴走者がいるかどうかのほうが重要です。
―GIGAスクール構想の第2期に向けて、理想のICT活用は。
佐藤 子どもが自分で判断して端末やサービスを使えるようになるのがベストです。まだまだ子どもたちの判断で使わせてもらえず、先生の判断で使わせる学校も多いです。それでは主体的な学びにならないのです。「失敗をするのが学校」と言っても、ICTでは失敗を許さない、させないという感覚が根強く残っているのではないかと思います。
「これをしてはいけない」「~のときだけ使う」と禁止や制限を設けないと、先生が大変だという声があるのも分かります。ですが、それは端末があるせいではなく学級経営にも課題があるのではないかと立ち止まる視点も持ってほしいです。
今まで学校で、大事にしてきたものや考えの土台まで変える必要はないですし、その中で主体的に端末を活用できるようにすることは可能です。
次の学習指導要領改訂に向けた議論が始まっています。ICT活用を前提として、むしろ活用しなければ各目標は達成できないという感覚が必要になってくるかと思います。クラスにはいろいろな子どもがいて、認知特性も違います。一人一人は違うのだということを前提にしてクラウドサービスや教科書、コンテンツを使えるようになれば、これは個別最適な学びの実現にもつながります。
一斉指導が悪いと言っているのではなく、一斉に教える場面ももちろん残りますが、それだけだと自立した学習者は育ちません。自立に向かって個別最適な学びにチャレンジしないのはもったいないですし、挑戦しないと一斉指導の質も上がっていかないと思います。
―近年、注目を集めている生成AI活用に関してはいかがでしょうか。
佐藤 今後、学校での活用が言われるようになると見ています。この一年で活用が進んでいる学校もあり、見過ごすことはできないでしょう。
文部科学省の生成AIガイドラインにもあるように、まず先生がAIの特性や使い方を知り、子どもたちが使うときにアドバイスできることが大事です。社会がAI活用の方向に向かっている以上、禁止は意味を持たないですし、それならば、きちんと教えるべきだと思います。
ICTを活用して主体的な学びをしていれば、生成AIもうまく使えるようになります。これからの学びのためにも今から端末の活用、クラウド活用を積極的に進めてほしいです。