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「困った生徒」の物語 リアルな教育現場をのぞく

23面記事

書評

磯村 元信 編
「適格者主義」の実態映し出す

 いわゆる「課題困難校」の最前線で格闘してきた著者の、前著『さらば学力神話』(令和5年9月4日付本欄)に続く渾身の書である。
 「困った子ども」本人が実は一番困っている。彼らが抱える問題のほとんどは、自己責任では済まされない家族や社会の問題なのに。
 そして、彼らと関わる教職員や保護者、外部支援者たちの苦悩や不安、疲弊感や徒労感。そうした現場の壮絶な「リアル」を描く。
 本書で繰り返し強調されることの一つが、高校教員の意識に残る「適格者主義」の「亡霊」だ。制度と実態の乖離。それが、著者が「高校における(浅田注‥困った生徒の)合理的排除」と形容する状況を生んでいる。
 もう一つが、「誰一人取り残さない」「個別最適な学び」など威勢のよいキャッチコピーを気軽に発信する教育行政の関係者が、それらの言葉の意味を本当に理解し、覚悟を持っているのかという怒り、いら立ちだ。「予算を付けてサポートする」のも大切だが、それで問題が解決するのではない。一人一人に向き合い「とことん面倒を見る」「どこまでも付き合い切る」ことの方が何百倍も大変だと分かっているのか。多様な学校に一律の基準を押し付けるのではなく、実態に合った「血の通った」仕組みや運用になぜしないのか。
 「合理的」なら「排除」していいのか。皆さんにも、ぜひ一緒に考えていただきたい。
(2200円 新評論)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)

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