日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

理科教育の充実に向け、観察・実験機器の整備を

9面記事

企画特集

日本理科教育振興協会「令和5年度 全国小・中・高等学校 観察・実験機器充足調査」から
新学習指導要領で増える観察・実験機器

 観察・実験機器が不足している―。理科教育における「観察・実験」等の教育活動を充実させるためには、理科教育設備整備費(以下、理振補助)等の補助金を有効に使って必要な設備の整備を行っていく必要がある。しかし、理科教育を支援する(公社)日本理科教育振興協会が昨年度に全国の小・中・高等学校を対象に行った調査でも、観察・実験機器の整備が11年連続で不十分であるとの結果が出ている。ここでは、その内容を紹介する。

予算が乏しい、古くて使えない

 教科書に掲載されている実験を行うためには、優先的に整備すべき設備となる最重点・重点設備機器(計量器、実験機械器具、野外観察調査用具、標本、模型)の充実を図る必要がある。特に、小学校の電子てんびんや直流電流計、中学校の実験用オシロスコープやデジタル気圧・高度計といった最重点設備機器は100%充足することが必須になっているが、整備充足率は小学校で約7割、中学校は約6割と足りていない。重点設備品も、小学校4割、中学校6割、高校2割程度にとどまっている。
 その理由としては、「実験機器が古くて使えない」「故障が多くて使えない」「一度に同じ機器を一括で揃える予算がない」「予算が乏しく、同じ機器が揃わない」という声が多い。ただし、最重点・重点設備機器の品目を「知っている」と答えた割合が、いずれの校種でも半数しかないという実態も課題ではある。
 代表的な理科設備品の整備状況の不足も目立つ。小学校の「電子てんびん」は必要数21台に対し、9台弱。新たに追加された「電気の利用プログラミング学習セット」も5台余りとなっている。中学校の「顕微鏡」は必要数41台に対して32台と迫ってはいるが、新規の「双眼実体顕微鏡」になると16台と下がってしまう。高等学校の「レーザー光源装置」は必要数11台に対し、1・3台、「オシロスコープ」も21台必要なところ、わずか1・8台しかない。また、1台あればいい放射線を可視化する「霧箱」も0・6台と半数近くの学校で足りていない

追加された実験機器の整備も遅れている

 理科の新学習指導要領では、追加された内容・変更点によって、ほかにも新規の観察・実験機器が多数登場している。例えば小学校では、おんさ、水のしみこみ方実験セット、製氷機、デジタル気体チェッカーなど。中学校では、赤外線サーモグラフィー、水圧浮力実験セット、光の屈折反射実験セット、燃料電池実験セット、提示用顕微鏡、偏光顕微鏡、電池実験セットなど。高等学校は、低周波発振器、ハンディ顕微鏡カメラ、計測センサーセット、ハンディGPS装置などである。
 だが、そんな「新しく必要とされる観察・実験機器の整備はできていますか」の問いでは、「整備はできている」と答えた小学校は約17%、中学校は14%、高等学校は3%ほどしかなく、それ以外の大半が「進めている途中である」と回答している。

古い実験機器を使い続ける学校

 一方、理科室には古くなったり、故障したりして使えなくなった実験機器が多く眠っていることも問題になっている。今回の調査でも、使用できない「生物顕微鏡」を保有している小学校は約8%あり、中学校では約12%に上る。また、「生物顕微鏡」を購入した時期も、20年前以上が小学校で3割以上、中学校で2割。10~20年前も、小学校で4割弱、中学校で4割に達しているなど、いつ壊れても不思議のない顕微鏡を使い続けている学校が多い。
 しかも、古い実験器具ともなれば、火災や事故につながる恐れもあり、安全な実験を行う上でも適切な時期を目途に買い替えていかなければならない。中でも、顕微鏡や電源装置など一括で整備することが望ましい機器は費用が大きくなるため、次年度に向けて、なるべく早い時期に予算要求していくことが必要だ。
 さらに、観察・実験授業を円滑に行う上で不可欠な消耗品も不足している。「不足している」と答えた小・中・高等学校は、いずれも5割~6割近くに達している。これは、一クラスあたりの平均予算がいずれも1万円程度しかないことが影響していると考えられる。

教育委員会に対して積極的な予算要求を

 「理振補助」では、公立・私立学校とも購入経費の2分の1(沖縄は4分の3)の補助が受けられ、残りは地方交付税措置となる。そのほか、小学校で1万円未満、中学校2万円未満、高等学校4万円未満の設備を購入する場合は、地方自治体が独自に予算措置して理科設備を整備する「理科少額設備費」もある。
 理科の新学習指導要領において「実感を伴った理解」が目標の一つになったのは、子どもたちの自然体験が乏しくなっていることや、科学的な見方・考え方を養うためには、具体的な体験を通して形づくられる理解が重要になると考えたからだ。
 しかし、そのために必要となる観察・実験機器の整備が追い付いていないのが実態である。せっかく財源を設けているのに生かされていないことは、子どもたちの理科離れや理科教育自体の地域格差を招く要因になる。各学校では、ぜひこれらの制度を活用して教育委員会等に積極的に要求を図り、授業の充実を図ってほしい。

企画特集

連載