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創造力を解き放て!「STEAM型」理科教育で、子どもたちの未来を拓く

8面記事

企画特集

実社会で必要な力を育む理科教育へ

 自然や科学への興味関心を育むために「観察・実験」を取り入れ、探究的な学習の過程を重視する理科教育は、これからの時代に必要な自ら主体的に学び、課題解決する力を育む教科として、その役割がより一層重要になっている。こうした中で期待されているのが、より科学的な視点や手法を用いて問題解決能力を養うSTEAM型の理科教育だ。ここでは、そうした学びが求められる背景とともに、新しい理科教育のカタチを紹介する。

デジタル人材を5年間で230万人

 デジタル技術の急速な発展により、グローバルな規模で社会や産業の構造が大きく変化する中、わが国では情報やデータが活用・共有されるソサエティ5.0社会の実現を加速させることが重要な課題となっている。しかし、スイスの国際経営開発研究所が毎年発表する「デジタル競争カランキング」では、相変わらず韓国や台湾、中国などの東アジア諸国にも大きく水を空けられている。政府は企業・産業のDXを推進する施策を進めてはいるものの、その担い手となるデジタル人材の育成が追い付いていないのが実態だ。
 したがって、昨年6月に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想基本方針」では、DXを主導する「デジタル推進人材」を、国内において5年間で230万人育成するという目標が掲げられた。また、そのためには女性の理工系進学を増やす必要があることから、内閣府は理工系分野に興味・関心を持ち、将来の自分をしっかりイメージして進路選択することを応援する「理工系女子の活躍推進事業」を実施。民間企業において女性が活躍できる環境や、女子学生個々のニーズに合わせた支援体制の整備などの強化を進めていく意向だ。

文理融合を進める環境整備を強化

 こうした中で、文科省も情報工学系の女子学生の割合を2030年までに30%へと増加させることを目標に掲げているほか、成長分野となるデジタル人材の育成に向けて、大学教育段階でのデジタル・理数分野への学部転換の取り組みを進めている。
 加えて、その政策効果を最大限発揮するためには高校段階からの人材育成の強化が必要なため、昨年度の補正予算で100億円を投じる「DXハイスクール事業」をスタートした。これは、情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的・探究的な学びを強化する公立・私立高等学校に対して、1校当たりに必要な環境整備の経費(1千万円)を支援するもの。
 支援の対象となる設備は、ICT機器整備(ハイスペックPC、3Dプリンター、動画・画像生成ソフト等)、遠隔授業用を含む通信機器整備、理数教育設備整備、専門高校の高度な実習設備整備などが挙げられている。

体験の中で科学的な思考力を育んでいく

 このように、日本の将来にとって不可欠なデジタル人材を育成していくためには、初等中等教育段階から自然や科学に関する興味関心を高め、それを課題解決につなげる論理的思考力やITに関する技術的なスキルを身に付けていかなければならない。
 その上で、こうした学びを獲得するために学校現場における取り組みで期待されているのが、「STEAM型」の理科教育だ。STEAM教育とは、科学、技術、工学、数学に、多面的見方が促される芸術を加えた、5つの科目を統合的に学ぶ教育法となる。社会とテクノロジーの関係がますます密接になっていくこれからの時代においては、この5つの領域の理解と学びを具体化する能力がますます必要となってきているからだ。
 つまり、従来の理科教育のように教科書の内容を暗記したり、「観察・実験」を行ったりするだけでなく、子どもが体験の中でさまざまな課題を見つけ、クリエイティブな発想で問題解決を創造、実現していくための手段を身につけることを目指す授業スタイルとなる。
 自然や科学を追究する理科教育は、もともと「探究の過程」や「探究活動」に力点を置いてきた教科である。その中で、今後はより科学的な視点や方法を用いるとともに、各教科で得た知識や技能も働かせて、自ら課題解決できる資質・能力を磨いていくことが望まれているのだ。

理科での探究を深めるICT活用

 では、「STEAM型」理科教育の具体例とはどのようなものになるのか。理科の新学習指導要領では、科学的な見方・考え方の素養を培い、実感を伴った理解につなげるために「観察・実験」の機会をなるべく多く取り入れることが求められている。そのため、小学校高学年では理科専科教員の配置も積極的に進められており、教科指導の専門性を持って、子どもの興味・関心を高める授業改善が図られる体制が整備されつつある。その中で、「STEAM型」理科教育の第一歩となるのは「観察・実験」と併せてICTを効果的なシンキングツールとして活用することだ。すなわち、ICTの特性を活かしたデータに基づいたアプローチにより、モノごとについて深く観察・考察する時間を取り入れることにある。
 1人1台端末が導入された現在では、クラウド上で情報を共有し、「観察・実験」で得たデータや結果を子どもが主体的にまとめたり、分析・考察に利用したりすることができるとともに、他の子どもやグループによる結果や考察と比較することも容易になっている。
 例えば、実験の結果は母数が多いほど正確になるため、グループで実験した結果をクラウド上の一枚のシートにまとめる。その結果から自分の仮説を立てたレポートを提出。それぞれの仮説を参考にして学びを深めていくといった活動が実現できる。
 また、端末に映像を取り込みやすいデジタル顕微鏡や、通常では計測しにくい量や変化を数値化・視覚化して捉えるセンサー装置・シミュレーション教材を使えば、より科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの検証が図れるようになっている。あるいは、学校で「観察・実験」できない事象や関連する情報などはインターネットから入手できるため、仮説を確かめる方法やさらなる考察・推論に役立てられる。これらに加え、グループワーク・発表を取り入れることで、自分なりの探究をさらに深めていくことができるのだ。

教科の枠を超えて洞察を深める

 そのほか、ICTの活用ではプログラミングやロボット制御、3Dプリンターを使った工作など具体的なモノづくりを目標にする取り組み。教科横断的な学びとしては、理科で身に付けた知識・技能をもとに、環境問題やエネルギー問題といった、今日の社会との関連性まで洞察を深める学校も多くなっている。
 さらに、近年では民間企業や大学・研究団体等が、学校現場でのSTEAM教育を後押しする動きも目立っている。例えば「STEAMライブラリー」などインターネット上には学校での使用に即した、学習指導要領との紐づけや指導計画を備えた教材が多く提供されているほか、実践事例などの動画も公開されるようになっている。加えて、大学や研究機関、博物館などと連携・協力したプロジェクト学習などの実践も増えているところだ。

「STEAM型」理科教育の課題

 「STEAM型」理科教育には、児童生徒が主体的に学習できる、創造性や問題解決能力を養える、科学技術への関心を高めることができるなど、さまざまなメリットがある。ただし、教員の専門性や指導力が必要、設備や教材の費用が多くかかる、評価方法が難しいといった課題もある。具体的には「誰が教えるのか?→学校の先生、外部講師」「何を教えるのか?→横断型の教育コンテンツの開発」「どうやって教えるのか?→教育・学習方法の開発探究活動等」を考えて、その取り組みを計画的に実行していく必要がある。それだけにSTEAM教育を全国の学校で普及していくためには、学校現場の努力だけに任せるのではなく、企業・自治体・地域・大学など多様な機関を巻き込んだ連携体制の整備・構築が重要になるといえる。
 また、その上では、小中との接続を意識した、より連続性・一貫性のあるカリキュラムの導入に向けた校種間の連携強化や理科専科教員の加配、理数分野の研究者など専門的な知見のある人が学校教育に参画しやすくなるような仕組み。高等学校では、SSH校が起点となったSTEAM教育を地域全体に展開していくことや、文理横断的な学びを進めるための大学入試科目の見直し等も進めていく必要がある。

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