日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

教育政策をめぐるエビデンス 学力格差・学級規模・教師多忙とデータサイエンス

16面記事

書評

中西 啓喜 著
根拠に基づく議論 なぜ困難か考察

 「エビデンス」は、証拠、根拠の意である。本書は「教育政策にエビデンスを求める姿勢はますます強くなっている」としながらも、「政策的意思決定は、必ずしもエビデンスに基づいて成されていくのではない」という認識に立って「なぜエビデンスに基づいた教育政策の議論は困難なのか?」を考察する。
 大きな思潮の流れとして、意思決定に当たっては「『エピソード』から『エビデンスへ』という趨勢が読みとれる」と述べ、それは実践者の勘や断片的なエピソードに基づく意思決定を批判し、「科学的に裏付けられたもの」をエビデンスとする姿勢に特徴があると述べている。このような思潮の流れに対しては私でも素直に首肯できる。だが、それはあまりにも当然のことで、今更改めて言うまでもないことではないかという思いも捨て切れない。
 「科学的エビデンス」は、「科学的な手続きによって示される証拠(エビデンス)」であり「要因間の因果関係を明確にすることを目指す」とし、「統計的有意性検定」によって「科学的な確からしさ」を提示するが、著者は「科学的エビデンスを基にして政策展開がなされれば、手放しで社会が改善されるのだろうか」と重い疑問を提起している。
 「実際の政策的意思決定は、複数のエビデンスが政治的に調整されて成立する」という立場から持論を展開した専門的で貴重な一書だ。
(3960円 勁草書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

書評

連載