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小学生『夢をかなえる』作文コンクール 「学校賞」受賞校に聞く

8面記事

企画特集

ライフプランニング出張授業の様子=東京都練馬区立大泉西小学校

 「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」(主催=特定非営利活動法人日本FP協会/日本教育新聞社、後援=文科省他)は、将来の夢を描くことの大切さや、その実現に向けたライフプランニングの重要性が理解できる作文コンクールだ。このほど第18回の募集が始まった。応募者はオリジナルの課題図書を読み、夢をかなえるまでの「ライフプランシート」と作文を提出する。道徳や国語などの教科、総合的な学習の時間やキャリア教育、夏休みの宿題に幅広く活用できる。昨年度「学校賞」を受賞した3校に、コンクール参加の意義や取り組み内容を聞いた。
 
ライフプラン記入後に職場体験を実施
6年生の「総合」とキャリア教育に活用
岐阜県岐阜市立鶉(うずら)小学校

 前回の「夢をかなえる作文コンクール」に、6年生4クラスで113点を応募し「学校賞」優秀学校賞を受賞した岐阜市立鶉(うずら)小学校(武藤広朗校長、児童数801人)。作文を書くにあたり、子どもたちが過去の受賞作品に刺激を受けたことが積極的な取り組みにつながった。コンクールへの応募が終わった後、職場体験を経てもう一度作文を書き「タイムカプセル」にして残す、という6年生らしい完結した実践になった。

「夢がない」子たちに過去受賞作で刺激
 昨年度、6年生を受け持った飯田高敏教諭によると「夢をかなえる作文コンクール」に学年で参加したきっかけは、総合的な学習の時間で多くの子どもが「将来の夢はわからない」「まだない」と答えたことだった。
 そのときに学校に届いていたチラシでコンクールの存在を知り、子どもたちが自分の未来について考える良いきっかけになるのでは、と学年で話し合い、取り組むことにした。
 5月に「作文コンクール課題図書『夢をかなえる』」を読んだうえで、改めて将来の夢やその理由をたずねる「アンケート」を実施した。「やはり具体的になりたいもの、したいことが持てていない子どもが多いなと感じました」と飯田教諭。
 そこで、コンクールの過去受賞作品を子どもたちに見せることにした。過去の受賞作品とライフプランシートは、日本FP協会内のコンクール専用ページに公開されており、誰でも読むことができる。
 特にライフプランシートには何歳までにどんな資格を取得するのか、そのためには大学や高校でどう学ぶのか、子どもの考えが記されている。「同じ6年生がライフプランを細かく書いているのを読んで、子どもたちは、はっと気付いたようです。夢を実現させるにはちゃんと考えないといけない、と。自分たちは今のままでいいのかという課題意識につながりました」(飯田教諭)

飯田高敏教諭

自分を知り仕事を知る「生き方すごろく」
 しかし、なりたいものと言っても具体的な職業に関する子どもたちの知識は多くない。そこで、6月は「職業調べ」に取り組んだ。自分のタブレット端末で検索したり、岐阜市教育委員会公式YouTubeチャンネル「ぎふMirai’sチャンネル」のライブ配信を見て、岐阜市で活躍する人の生き方・考え方に触れたりすることで、さまざまな職業について知ることができた。
 意欲をさらに高めるために同じく6年の田口美希教諭が作成したのが「生き方すごろく」だ。スタート地点のマスは「自分の長所を言う」から始まり、「好きな教科を言う」「職業紹介の動画を見る」「中学校で楽しみなことを話す」「あこがれる職業を言う」と、ゴールに近づくに従って、将来の夢や、夢に向かう生き方を自然と意識できるようになる。
 7月の授業参観日に取り組んだところ、夢を語るわが子の成長ぶりに驚く保護者も多かったという。この日をきっかけに家庭で夢の話をするようになった子どもも増えた。
 こうしてライフプランシートと作文を夏休み前に書き終え、夏休み中の推敲を経て9月に応募した。
 飯田教諭は「いきなり作文を書くのではなく、ライフプランシートから入るところが、子どもたちのやる気につながりました。文章を書くのが苦手な子どももシートを使い、自分の人生がこれからどうなるかの道順を楽しく考えることができたようです。何より、今までの作品を見るだけでも、子どもたちは触発されていました」と、子どもたちの変化を語る。

未来への想いタイムカプセルに詰めて
 作品応募後の9月26日には「職場体験」を実施。子どもたちの希望するラーメン店、保育園、美容室など地元の協力を得て18カ所でおこない、体験記を動画にして発表した。
 年度末には「二十歳の自分へ」と題した二つの活動に取り組んだ。一つは改めて自分の夢について作文を書くこと。もう一つは、ライフプランをマッピングの形にしたオリジナルの「ドリームマップ」の作成だ。
 1年間の総合で学んだことを書き加える子ども、自分の夢を持った子ども、途中で夢がはっきりしてきた子どもと多様な姿が見られた。
 作文とドリームマップは卒業前にタイムカプセルに封入。子どもたちが二十歳になったら開封する予定だ。

3年生から始めるキャリア教育
家族や友だちと「夢」を語る
東京都練馬区立大泉西小学校

 練馬区立大泉西小学校(岩切陽一校長、児童数394人)は、前回の第17回「夢をかなえる作文コンクール」で56点の作品を応募し、初参加ながら「学校賞」優秀学校賞、中・低学年部門「個人賞」優秀賞を受賞した。小学3年生でも取り組みやすい工夫を重ねたところ、コンクール参加を通じて家族で夢や将来について考える機会が生まれ、また、教師の児童理解につなげることができた。

職業調べにもひと工夫
 応募のきっかけは「子どもに夢と気概を育む教育実践を展開する」という、同校の学級経営方針だ。岩切校長は日ごろから「子どもたちと将来の夢について話をしよう」「子どもの自己肯定感を高める実践をしよう」と教員に呼び掛けており、昨年度、3年生を担任した河原幸子教諭と中村安奈教諭は「夢をかなえる作文コンクールはぴったりなのでは」と思い、学年2クラスで取り組むことにした。
 河原教諭らは3年生の認知特性を考えて、取り組みやすいようにさまざまな工夫をした。
 まず、課題図書は2学期から配付。普段、国語などで使っている「音読カード」を活用して、1週間で読み切れるように指導した。
 インターネットを使った調べ学習はまだ難しいことから、夏休み中に職業に関する図書を地域の図書館から60冊、学校図書館から30冊借りてクラスに置き「自分が何になりたいかを見つける」ことからスタートした。
ライフプランニングシートの作成にあたっては、日本FP協会のライフプランニング出張授業を活用して外部講師に話をしてもらった。
 「子どもたちはまだ、自分がなりたいものになるために、お金がかかるという視点を持ちづらいようです。そこで、ライフプランニングシートは家の人に見てもらい、話しながら書いてごらんと、励ましました」と河原教諭は振り返る。話す時間が十分持てるようにシートは週末に持ち帰らせた。

素直な思いを引き出す
 一方、作文を書くときは「子どもたちの書きたいことを書いてもらいたかったので、否定的な言葉を入れずに赤を入れ、自宅には一度持ち帰らせるだけにしました」(河原教諭)。
 このように家庭内のコミュニケーションを充実させつつ、子どもたちが思いを素直に出せるよう支援したことが、受賞に結び付いた。
 個人賞優秀賞に輝いた熊崎稜士さんの作文テーマは「すししょく人になるゆめ」。家族で寿司を食べにいった経験や、祖父と行く魚釣りも「やくに立つ事かもしれません」と、家族とのかかわりの中で将来の夢を膨らませることができた。
 「受賞の知らせを聞いて、熊崎さん本人、またご家族もとても驚き、喜んでいました。文章を介して自分の夢について家族やきょうだいと話す機会が持てた活動でした」(河原教諭)。
 「2カ月取り組んでみて、子ども一人ひとりが、こんなことを考えていたのだな、と教師として濃厚な体験ができました。それをご家庭と共有できたのも意義があったと思います」(中村教諭)。
 今年度は両教諭とも低学年を担任している。なりたい職業はまだ思い浮かばなくても、「どんな6年生になりたいか」や「周りの大人にどんな夢があったかを聞いてみる」といった、少し先の未来を見る目を持つことも、キャリア教育なのではと感じている。

自校のキャリア教育をパワーアップさせる機会に活用 
千葉県日出学園小学校

 「自分のよさを知り、未来にたくましく進める子」を学校目標とする日出学園小学校(荻原巌校長、児童数618人)で情報科、総合的な学習の時間を担当する田中秀明教諭は、10年ほど前から独自に「将来作文」という取り組みを続けてきた。
 今の自分を将来の自分に置き換えて、小学校卒業時からの自分の人生をつづるというもの。「子どもたちには、今、学んでいるものが今後どのように活用できるのかを知り、夢や目標に向かって、楽しんで学習を重ねていけるようにしたい」との思いからだ。
 国語科の同僚から「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」を勧められて5・6年生で実践した。
 まず、5年生の3学期に「お金とは何か」「働くことの意味」を考えたのち、自分が就職したと仮定して「一人暮らしの収入と支出」について学ぶ。最後に、さまざまな職業について調べ、目標とする夢や気になる夢を決定する。
 6年生になると、就職までに必要な資格やスキル、大学の学部を調べ、大学合格を目指す中で、高校までにどのような生活を送るか、また、高校に進むために中学校でどのくらいの目標を立てるか、夢から現在までにどのような努力が必要かを考えさせた。
 その際に、「ライフプランシート」を書きあげ、その後、作文に取り組んだ。作文を書くのは宿題とせず、学校内での取り組みとした。保護者の目を意識せず、のびのびと書いてほしいという思いがあったからだ。

努力だけでなくお金も必要
 「支えあって笑顔を」のタイトルで、海外にも店を持つ料理人になる夢を描いて優秀賞を受賞した6年生(当時)の松崎汐音さんは、応募した感想を次のように語っている。
 「夢をかなえるには、努力だけではなくお金も必要なのだということを同時に知りました。今後どんな時に、どのくらいのお金が必要なのかを考えると自分の想像より、むずかしい世界があるとは知りませんでした」。育てた後輩に店を預けるといった長期的な人材育成の視点もライフプランシートに盛り込んだ。

課題図書を端末に配信
 このように子どもたちが具体的に自分の未来をイメージできたのは、ICTの活用がひと役買っている。課題図書『夢をかなえる』を紙の冊子で配付するだけでなく、それぞれのタブレット端末に配信した。気になったことをすぐにインターネットで調べるメリットが生まれ、結果を友達同士で比べるなど、学び合う姿も見られたという。

一人暮らしの収入と支出について調べる「お仕事発見プログラム」(No.1)シート

小学生『夢をかなえる』作文コンクール 第18回 4つのポイント

(1)『ライフプランシート』をリニューアル
 小学生『夢をかなえる』作文コンクールは、将来の夢への想いを綴った「作文」と、その実現のための具体的な行動計画表となる「ライフプランシート」(以下LPシート)をセットで応募する。この度募集を開始した第18回から、1~3年生までの「低学年部門」、4~6年生までの「高学年部門」共に、「LPシート」を取り組みやすいようにデザインをリニューアルしている。

(2)『課題図書』に従来からの「冊子版」に加え「電子ブック版」も登場し好評
 「作文」「LPシート」を作成する前に読むコンクール『課題図書』について、従来からの「冊子版」に加え、新たに「電子ブック版」を公式サイト内に設置。応募希望児童分無料配布を実施中の「冊子版」の他、“一人一台端末”でも活用できる「電子ブック版」の登場により選択肢が増え学習活動支援がより充実している。

(3)『夢をかなえる!キッズライフプランパーク』を開設
 コンクールへの応募につながる学習活動を支援する金融経済教育用Webサイト『夢をかなえる!キッズライフプランパーク』が登場。アニメやクイズで楽しく学べるコンテンツの他、教師向けの「学習指導案」もダウンロード可能。
 また「教材ワークシート」はコンクールの「LPシート」にそのまま転用する事もできる。

『夢をかなえる!キッズライフプランパーク』https://www-oc.jafp.or.jp/personal_finance/lifeplanpark/

(4)『ライフプランニング出張授業』実施中

 日本FP協会では、作文コンクールの一環として、ライフプランニングの重要性を伝えることを目的に、ファイナンシャル・プランナー(FP)を講師として小学校に派遣する「ライフプランニング出張授業」を実施している。
 派遣に関わる費用(講師交通費等含む)は、日本FP協会が負担。全学年対象で、募集期間は5月~9月下旬まで。申し込み方法は公式サイトで確認できる。

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