『給特法』見直しの重要性と教員の処遇改善
トレンド現在、教員の働き方改革を推進する過程で、教員の処遇改善が大きな課題であるとされています。そのなかでも、教員の働き方や給与などに大きく関係する“給特法見直し”の議論が活発化し、改正の必要性や廃止について各方面から声が上がっています。
今回は、給特法の見直しが必要とされている理由や、教員の働き方改革における課題について解説します。
給特法とは
給特法の正式名称は、『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』です。公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、給与や勤務条件について特例を定める法律として、昭和46年に施行されました。
戦後、大きな社会問題となったのが教育現場における教員の長時間労働と過重な業務量です。多くの教員が過労やストレスに悩まされていたことから、“超過問題”として取り上げられ、教育の質を維持しつつ、教員の健康を守るための制度改革が求められました。
全国で教員たちが超過勤務手当の支払いを求める行政訴訟が多発する事態となり、昭和41年には文部科学省が教員の待遇改善のため実態調査を行いました。この調査を基に、昭和46年2月に人事院が教職調整額の支給に関する法律の制定に関する意見の申出をしたことが給特法制定のきっかけです。
出典:e-Gov法令検索『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法』
給特法の現状
現在の給特法では、「教員は原則として時間外勤務が生じない」ことが定められています。ただし、以下の“超勤4項目”については時間外勤務を命ずることが可能です。
超勤4項目
(イ) 校外実習その他生徒の実習に関する業務
(ロ) 修学旅行その他学校の行事に関する業務
(ハ) 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
(ニ) 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
引用:文部科学省『資料3 教育公務員の勤務時間について』
これに基づき、教員に対して残業代や休日勤務手当などの超過勤務手当は支給されず、労働基準法第37条の適用から除外されています。その代わりに、給与月額の4%が教職調整額として支給されています。
出典:文部科学省『資料4‐2 教職調整額の経緯等について』
教職調整額の概要
教職調整額の“4%”は、昭和41年の勤務実態調査の結果を基に設定されています。しかし、給特法の施行開始時と現在の教員の時間外勤務を比較すると大きく増加していることが分かります。
▽教員の時間外勤務時間数
・昭和41年:平均約8時間/月
・平成18年:平均約35時間/月
また、小学校1,200校、中学校1,200校、高等学校300校に勤務するフルタイムの常勤教員を対象にした令和4年の実態調査によれば、月50時間を上回る時間外勤務をしている教員の割合は過半数を超えています。
▽月50時間を上回る時間外勤務をしている割合
・小学校教諭:64.5%
・中学校教諭:77.1%
これらの調査結果からも分かるように、教員の時間外勤務が増加していることから制度の見直しを求める声が多く上がっています。
出典:文部科学省『資料4‐2 教職調整額の経緯等について』『教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】』『教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(速報値)について』
令和の給特法改正
教員の業務長時間化が「極めて深刻な状況である」として、『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律』が制定され、さまざまな視点から給特法改正が進められています。最近では、令和2年と令和3年に教員の業務量や休暇の取り方に関する部分で改正が行われました。
令和2年4月1日施行:業務量の適切な管理等に関する指針の策定【第7条関係】
・教育職員が学校教育活動に関する業務を行っている時間として外形的に把握することができる時間を”在校等時間”と定義する
・超勤4項目以外の業務を行う時間も含める
・1ヶ月の時間外在校等時間45時間以内、1年間の時間外在校等時間について、360時間以内と定める
令和3年4月1日施行:一年単位の変形労働時間制の適用(休日のまとめ取り等)【第5条関係】
・休日のまとめ取りのように集中して休日を確保することを可能にする
・地方公共団体の判断により条例で選択的に活用することが可能になる
出典:文部科学省『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案の概要』
給特法および教職調整額の見直し
教員の働き方改革や質の高い教師の確保を目指すなかで、教員の処遇改善は重要な課題といえます。中央教育審議会の『質の高い教師の確保特別部会』では令和6年5月13日に教員確保に向けた総合的な対策案を了承しました。対策の一つとして、教職調整額を現在の4%から10%以上へと引き上げる必要があるとの考えを示しています。
一方で、教員の職務は個人の自発性創造性に期待する面が大きいことや、学校休業期間があり勤務時間の長短で評価するのが難しいことなどから、「教職調整額は一律に支給できる枠組みではない」との声も上がっているのも事実です。これらの懸念に対して、教員の働き方の実態に合わせた丁寧な調査評価が課題であると考えられます。
教員の働き方改革と給特法
公立の義務教育諸学校で働き方改革を進めるためには、教員の処遇改善が重要な課題です。給特法の改正によって、教員の負担軽減やワークライフバランスの向上が期待されます。時間外勤務の適切な管理や、集中して休日を確保する制度の導入が進んでいるほか、教職調整額の引き上げも議論されています。
教員の職務は自発性や創造性が求められる部分が大きいため、働き方の実態に合わせた調査や、適切な評価を行う仕組みづくりが重要です。給特法の見直しは、教員の働き方改革や質の高い教育を子どもたちに提供するための重要な一歩と考えられるのではないでしょうか。