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「働く人の瞬間の美しさ」を切り取る

5面記事

企画特集

2023年表彰式の渡邉知美教諭

 「子どもたちが『働く』ことについて考えるきっかけにしてほしい」という思いを込めて、2005年にスタートしたアイデム写真コンテスト「はたらくすがた」(主催=(株)アイデム)。キャリア教育の一環としてコンテストに取り組む学校も多く、第18回を迎えた2023年度は全国各地から8552点の作品が寄せられた。2007年と2023年に、中学校の部で団体奨励賞に輝いた静岡県伊東市立対島中学校で指導にあたった渡邉知美教諭(美術科/現・伊東市立南中学校在職)に取り組みの様子や教育の成果などについて話を聞いた。(以下敬称略)

自分の視点を大切にするアートの心を育てる

 ―美術科の授業で「はたらくすがた」を取り入れた理由を教えてください。

 渡邉 各学年の美術の授業で「絵画」の課題を設定しており、私は「働く人物」を主題にしてきました。生徒たちからは決まって「表情をとらえるのが難しい」という訴えがあり、写真でなら「瞬間の美しさ」を切り取ってもらえるのではないかとひらめきました。本コンテストへの参加を投げかけてみたところ、とても好反応で、ずっと取り入れています。
 また、私は本コンテストのテーマである「働く姿」という題材にも魅力を感じています。生きる意味の多くは働くことに置かれていると思っているので、働くことの美しさを生徒にも感じてほしいです。

 ―どのようにしてコンテストに取り組んでいますか。

 渡邉 最初に、教科書で絵画の視点の工夫の仕方について学び、次に美術科副読本の写真撮影の内容を学習し、絵を描くために、さまざまな角度から働く人を撮影してみようと呼びかけています。中学生は「写実期」という成長過程にあり、実物通りに描きたい思いがあるので、色や形、光にこだわりを持つことで自分が感じた美しさを表現する絵画の技術を教えます。その上で「美しいと感じる心、対象物へのまなざしは自分の中だけにあるもの。そこを大切に自分が美しいと思った瞬間を切り取ってきてください」と助言しています。
 伊東市は観光業に携わる自営業者が多く、撮った写真からその様子がありありと伝わってきます。絵画も写真も自己表現ですから、生徒が表現したかったことから心情に触れられますし、家庭の様子もよく分かり、対話が生まれるのも嬉しいことです。

 ―写真で人物をとらえることで、生徒に変化は見られますか。

 渡邉 はい。絵の主題を考えながら、写真を撮って絵に描くというプロセスの中で、「よく気づいたね」「センスがいいね」と着眼点や構図の切り取り方を称えたくなる場面がよくあります。絵画に苦手意識を持っている生徒が、「自分の視点こそがアートなんだ」と自信を持って取り組んでくれるようになりました。

 ―身近な人の働く姿を撮影した生徒の感想は。

 渡邉 コロナ禍は仕事の現場での撮影は大変だったのですが、「お母さんやお父さんが働いているのは、外でだけではないよ」と助言すると、家の中に視点を移して「働く」という意義を改めて考えたようです。医療関係者の家族を撮影することができた生徒は、家族が人のために頑張っている様子を撮影後に切々と語ってくれ、お互い胸を熱くしました。
 コロナが落ち着いてからは職場体験などのキャリア教育も再開し、美術科も総合的な学習の時間と横断しながら進めています。職場体験時に写真を撮らせてもらうこともあり、その度に生徒と対話しています。ファインダー越しに働く姿を見つめることで、深く職業と向き合うきっかけになっています。

 ―今後はこのコンテストをどのように活用していきたいですか。

 渡邉 取り組みの中で行っている、SNSへの投稿の考え方、肖像権の問題についての学習は今後も続けていきたいです。スマートフォンの時代になって写真がより身近になったからこそ、被写体との関係性をさらに大切にしなければならないと思うからです。
 また、「はたらくすがた」のHPで受賞作品やコメントが見られるので、生徒たちと一緒に鑑賞しています。撮った気持ちに近づこうとするのもアートの心です。私の仕事は「他者と生徒自身をアートでつないでやること」だと思っています。新任校でもエントリーして、アートの心を育んでいきたいと思います。

第19回アイデム写真コンテスト「はたらくすがた」応募要項

テーマ
 「はたらくすがた」
 あなたの身のまわりで働く大人の姿を撮影してください。

応募資格
 小学生・中学生・高校生(学校やクラス単位での応募も大歓迎)

応募方法
 専用応募用紙に必要事項を記入し、写真を貼りつけて応募。
 ホームページ(https://www.aidem.co.jp/csr/photocontest/application/index.html)からのweb応募も可能。

応募締め切り
 9月10日(火)(当日消印有効)

学校応募担当の先生へ
 ・応募用紙は必要部数を送ります。
 ・記入・貼り付け面のみのコピーも使えます。
 ・学校で取りまとめて応募の際は、応募者リストも送付ください。
 ・応募者リストはホームページよりダウンロードできます。

応募に際しての注意事項
 ・必ず、写る方に撮影と応募の許可をもらってください。
 ・応募作品は返却しません。
 ・入賞候補者には選考途中で元データを提出してもらいます。デジタルデータ・フィルムは入賞発表時まで必ず保管してください。
 ・入賞作品の著作権は撮影した方に帰属します。ただし、受賞後5年間は主催者(株式会社アイデム)が優先して使用します。
 ・入賞作品はアイデム写真コンテストの広告及び広報物に使用します。このため受賞した方は主催者が各媒体で作品を使用することをご了承ください。

応募先・問い合わせ
 〒160-0022
 東京都新宿区新宿1―4―10
 アイデム写真コンテスト事務局
 Tel=0120-938-989(受付時間 平日10:00~17:00)

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