四国・松山へおいでんか〜「選ばれ続ける修学旅行先」を目指して〜
12面記事「心のバリアフリー観光セミナー」の様子
平和学習や世界遺産学習の地である広島と愛媛・松山を結ぶエリアは、島々が織りなす風光明媚な景色と、そこで育まれた歴史・文化・産業など多様な資源の宝庫である。松山市では、そうした瀬戸内海の魅力を楽しみながら、道後温泉本館のある道後地区や現存十二天守の一つである松山城での歴史体験のほか、「俳句のまち」ならではの文化体験などを組み合わせた「広島―松山」の修学旅行を提案している。そんな同市の修学旅行は、コロナ禍を機に変化した。修学旅行の時期や行先の変更を余儀なくされた学校も多い中、同市の修学旅行受入校数は、令和2年度から3年連続で史上最多を更新した。
松山ならではの取り組み
修学旅行先として、松山が選ばれた理由は、大きく三つあると考えられる。
一つ目は「松山ならではの体験メニュー」。俳句吟行体験をはじめ中島地区でのみかん狩り・釣り体験などが多くの学校に支持されている。二つ目に「受け入れサポート」。旅行の行程作成や、事前学習素材の提供、下見・旅行当日の帯同を実施し、学校側の負担軽減につなげている。三つ目は心をこめた「おもてなし」。費用負担を軽減するためのクーポンの配布や夜間散策での見守りを行うほか、到着時には横断幕で出迎えている。
そして、同市がこれからも「選ばれる修学旅行先」であるために、修学旅行誘致の新たな挑戦として昨年度から始めた事業が「松山ユニバーサル・ツーリズム」である。
松山ユニバーサル・ツーリズム
「松山ユニバーサル・ツーリズム」は、特別支援学校の修学旅行でのサポート内容を充実することで、誰もが安心して楽しめる修学旅行先を目指す。
令和5年度は、特別支援学校向けの修学旅行専用パンフレットの作成や新たな助成金制度の創設など、さまざまな取り組みを実施した。
受け入れサポートの充実
地元の高校生と連携して製作した松山城のジオラマ
まずは、受け入れサポートを充実させるため、特別支援学校向けの事前学習素材を作成した。
全学年を対象とした事前学習用動画では、松山の魅力を手話通訳や音声を用いて紹介しているため、障がいの種別や年齢を問わない学習教材として利用することができる。
また、地元の高校生と連携し製作した松山城のジオラマは、事前学習のほか、ジオラマを触察しながら散策することで音声ではイメージしづらい立体的な松山城を体感することができる。
ぜひ手話通訳付動画や松山城のジオラマを使って探究的な学びにつなげてほしい。
おもてなし内容の充実
次に、おもてなし内容の充実だ。
各施設で多様なおもてなしが生まれることを期待して、特別支援学校向けのメニューやサービスを提供する際のハードルを下げる取り組みを行った。
特別支援学校向けに、きざみ食の提供や手話通訳士の手配といった特別なおもてなしを行う受け入れ団体を支援する助成金制度を創設し、受け入れ環境の整備につなげている。
また、宿泊施設や体験先施設の関係者を対象に「心のバリアフリー観光セミナー」と題した講演会を開催。障がいへの理解を促進し、各施設で「今からすぐに始められるおもてなし」について学んだ。
「選ばれ続ける旅行先」を目指して
「選ばれる修学旅行先」になるため、新たな挑戦として始まった「松山ユニバーサル・ツーリズム」であるが、将来的には、年齢や人種、言語、性別、特徴などに関わらず、すべての人が気兼ねなく旅行を楽しむことのできる持続可能な観光地の実現を目指している。
旅行先として「選ばれる」だけではなく、「選ばれ続ける」ことが大切であり、それは修学旅行でも同様である。官民の垣根を越えた取り組みが広がっていくことで、松山は誰もが安心して楽しめる旅行先として確かなものになるだろう。「選ばれ続ける修学旅行先」を目指して生まれたこの事業がさらに成長していくことを切に願っている。