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「思い出づくり」から「学びの旅」への転換が加速~令和5年度修学旅行(教育旅行)に関する調査結果から~

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修学旅行が本格再開、海外は進まず

 本紙が今年2~3月にかけて、全国の学校4500校(小中高各1500校・回答数530校)に行った修学旅行に関するアンケート結果によれば、令和5年度は99%近い学校が修学旅行を実施。コロナ禍による中止や延期の時期を経て、本格再開したことが見て取れる。
 また、2年前の調査では日程や行先の変更を余儀なくされた学校が8割近くあったが、訪問場所は「例年通り」の学校が6割で、「行先を変更した」学校が3割となっている。ただし、これも感染抑止といった後ろ向きの理由で変更したのではなく、教育的価値を高める「学びの旅」への転換を図るためなど、むしろ積極的に訪問場所を変更しているケースが多いようだ。
 一方で、訪問先を「海外」にする学校は一部で復活したケースがあるものの、円安による航空運賃の高騰なども影響してか、航空機を使用する場合でも大半が沖縄や北海道といった「国内」を継続しているのが実態だ。

探究型の修学旅行がスタンダードに

注目している学習テーマ

 次年度の修学旅行で注目している学習テーマでは、学習指導要領の改訂で学習内容が重点化された「探究学習、問題解決型学習」と答えた学校が349校と、ここ数年と同様に今回も最多になった。かつては思い出づくりがメインだった修学旅行も、単なる観光地巡りだけで終わらせるのではなく、現地での体験を事前・事後学習と組み合わせて、一人一人の深い学びにつなげる「探究学習」へと発展させる取り組みがスタンダードになりつつあるようだ。
 次点は、「平和学習」245校。世界で唯一の被爆国となる日本は、戦争の愚かさや無慈悲さを肌に刻む国だ。当時の記憶を持つ人が少なくなる中で、平和の尊さを次世代に継承していかなければならない。だからこそ広島や長崎、沖縄などで戦争遺跡に触れることは大きな意義を持つが、これも通過儀礼で終わらせないための一歩進んだアプローチや教育プログラムが重要になるといえる。

多様性理解を育む機会にも

 以降は「SDGs」193校、「英語学習、グローバル体験、異文化学習」173校、「キャリア教育」168校、「世界遺産」128校と続く。
 SDGsについては環境問題をテーマにするだけでなく、近年ではダイバーシティ教育が重視される中で、子どもたちに多様性に関する気付きを与えること、集団の中でお互いを尊重し合う態度や行動を育むことなどを、修学旅行の目的にする学校も多くなっている。これらは人権教育や異文化交流ともひとつながりになるが、今後はより個が活かされる社会が求められていることも背景にある。
 「世界遺産」は、京都・奈良を筆頭に修学旅行でも観光コースの定番となっている。だが、日本には屋久島(鹿児島県)、白神山地(青森県・秋田県)、知床(北海道)など全25カ所の世界遺産があり、日本初の産業遺産としては石見銀山(島根県)がある。有名観光地におけるオーバーツーリズムが指摘される中で、こうした地域にももっと足を延ばすべきといえる。

自立の機会や新しい発見につなげる旅へ

児童・生徒に体験させたいこと

 児童・生徒に体験させたいことでは、例年通り「原爆や被災地見学などのホープツーリズム」が最多の194校。ただし、「社会人との交流プログラム」139校、「大学研究の見学」113校、「職場体験」107校、「工場体験」60校を合わせると回答数の約半数に迫っており、社会との接点やキャリア教育につながる体験をさせたいという学校側の意図が感じられる。
 特に高等学校は、一方通行にならない学びや体験にするために、より自分たちにとって身近な現地高校生との探究学習を通した交流や、大学生とのディスカッションなどを取り入れるようになっている。
 コロナ禍を経て、ようやく自由にプログラムが組めるようになった今、ぜひ非日常の体験を活かして、一人一人の自立の機会や新しい発見につなげる旅へと導いてほしい。

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