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ぼくたちには「体育」がこう見える「体育」は学びの宝庫である

18面記事

書評

為末 大 編著
教科の枠超える可能性示唆

 本書は、体育に関する既存のイメージを解体し、「身体の扱い方を学ぶ科目」として再定義することで、この科目の持つ豊かな可能性を力強く示した対談集である。400メートルハードル日本記録保持者の為末大氏と各分野の第一線で活躍する「身体の扱い方」を熟知した11人のスペシャリストとの対話が収録されている。
 本書を読み進める中で、体育の深奥に潜むさまざまなキーワード(「遊び」「共感」「不便益」など)が浮かび上がり、「逆上がりができるようになる」といった局所的な目標から解放された、生きた体育の姿が立体的に描き出されてゆく。
 体育という科目は一教科の枠に収まるものではなく、ましてや教育の周辺に位置付けられるべきものでもない。この科目は、創造性の根源と結び付いており、あらゆる教科の基盤(ファンダメンタル)となるべきではないか。体育を国語(齋藤孝氏)や数学(森田真生氏)、美術(末永幸歩氏)との連関で読み解く視点は新鮮だ。
 為末氏は教育の中枢を「完成しないシステムを回し続けるための種を植える」ことと見ているが、本書を踏まえるならば、予測不能な時代を生き抜く上で「体育」が果たす役割は極めて大きい。狭義の体育教育に興味を持っている方だけでなく、教育に関心のある全ての読者にぜひとも手に取ってもらいたい一冊である。
(1760円 大修館書店)
(井藤 元・東京理科大学教授)

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