不登校特例校とは? 不登校対策の背景とその取り組み
トレンド教育現場において、現在大きな課題の1つとなっているのが、児童・生徒の『不登校』です。不登校となる原因は多岐にわたりますが、近年その数が急増していることから新型コロナウイルスにより環境が変化した影響が一因であるとも指摘されています。
文部科学省はこの問題の対策として、全ての子どもたちを現在の学校に復帰させることだけが目標でなく、子どもたち1人ひとりの実態に合わせて教育を提供する学校や学びの場を設置する必要があると考えています。
今回は、文部科学省が推進する『不登校特例校』の設置や、不登校対策への取り組みについて解説します。
不登校特例校とは
『不登校特例校』とは、不登校の児童・生徒に配慮し、特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校のことをいいます。すべての子どもが安心して学ぶことができるよう、一人ひとりに向き合った支援を行うことが目的です。
令和5年3月31日、文部科学省は『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』の概要を発表しました。この政策では、小・中・高校の不登校の児童・生徒の数が急増していることが背景にあることを課題とし、不登校特例校の設置を促進し、教育活動を充実させる取り組みが行われています。
出典:文部科学省『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』
不登校特例校の概要
不登校特例校は平成17年7月6日に教育課程の特例を認める学校として、文部科学省によって設定されました。この制度の主な目的は、学びの場における多様性を認め、不登校や学校生活において困難を抱える児童・生徒、すべての子どもたちが等しく学びの機会を得られるように、整備することにあります。
令和5年8月31日、「不登校特例校」は、子どもたちの目線に立った名称とするため『学びの多様化学校』へ変更されました。さらに、全国どこからでも子どもたちが通学可能となるよう、不登校特例校の設置を促進する政策の一環として行われました。
不登校対策の背景
文部科学省の資料『令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』によると、不登校の児童・生徒は平成25年度から9年連続で増加し、深刻化しています。令和4年度の小・中学校における不登校児童・生徒数は約30万人に達し、令和3年度に過去最多となった約24.5万人をさらに上回る結果となりました。
さらに、90日間以上の不登校にもかかわらず、学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けていない小・中学生が4.6万人もいます。
近年の不登校の児童・生徒の増加には新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から学校のイベントが制限され、児童・生徒の登校意欲が低下したことや、臨時休校や再開が繰り返され、学校を休むことに対する抵抗感が下がったことが要因であると考えられます。
出典:文部科学省『令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』
不登校特例校の特徴
不登校特例校の教育内容には、不登校の児童・生徒の実態に配慮した特徴があります。
▽主な特徴
・標準授業時数(年間1,015時間)と比べて総授業時間数が少ない
・体験型の学習を多く取り入れている
・習熟度別によるクラス編成や少人数指導の実施
また、不登校特例校以外の学校や教育支援センター、フリースクール等の民間施設、自治体の福祉部局などといった外部機関と連携し、情報共有を図ることも大きな特徴のひとつです。
不登校特例校とフリースクールの違い
不登校特例校とフリースクールはどちらも不登校の児童・生徒たちが、小・中・高等学校等の代わりに過ごす場所という共通点がありますが、この2つはそれぞれ以下のような違いがあります。
不登校特例校
・学校教育法施行規則第56条又は第86条に基づき、文部科学大臣が指定した学校
・不登校の児童・生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施することができる
・令和6年4月現在で35校設置されている
・居住地によって通えない児童・生徒がいることが課題となっている
フリースクール
・一般に不登校の児童・生徒を対象として、学習活動や教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設・団体の一つ
・民間の自主性・主体性のもとに設置・運営
・平成27年度に文部科学省が実施した調査では、全国で474の団体・施設が確認されている
今後の取り組み
増加している不登校の児童・生徒の現状を踏まえ、こども家庭庁や地方公共団体、学校等と連携して、一人ひとりに応じたさまざまな支援策を講じることが今後の課題になっています。
令和5年3月、文部科学大臣は『学びにアクセスできない子どもたちをゼロにする』ことを目標に以下の3つのプランを取りまとめました。
(1)全ての児童・生徒が学びたいと思ったときに学べる環境を整える
(2)心の小さなSOSを見逃さない
(3)学校の風土を『見える化』し、学校を『安心して学べる場所』にする
今後は、居住地にかかわらず児童・生徒が通えるようにするため、分教室型も含め全国300校の不登校特例校の設置を目指すとともに、こども家庭庁や地方公共団体、学校等と連携して、1人ひとりに応じた多様な支援に取り組んでいくことが重要だと考えられています。
出典:文部科学省『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』
すべての子どもたちに学べる環境を
文部科学省が打ち出している『誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)』では、不登校の児童・生徒が安心して学べる『不登校特例校』設置の促進や、教育支援に関する機能の強化、不登校児童・生徒の保護者への支援など、さまざまなアプローチで、全ての子どもたちが学べる機会の提供や環境の整備を進めています。
目標である『学びにアクセスできない子どもたちをゼロにする』を実現するには、行政だけでなく、学校、地域社会、各家庭、NPO団体、フリースクール関係者等などが、連携をしながら多角的な視点から取り組みを進めることが大切です。子どもの学びの継続と将来のために、不登校対策に関する取り組みの推進が今後も期待されています。