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「無料塾」という生き方 教えているのは、希望。

14面記事

書評

小宮 位之 著
教育的格差と戦う思想と活動

 新自由主義的な国家施策が世界的に進行する下で、経済的な格差がますます広がっている。子どもの貧困(各世帯における等価可処分所得の中央値の半分に満たない17歳以下の子ども)は、10人に1人を超えている。
 本書の著者もまた、そうした経済的に困窮した家庭に育ったが、周囲の人々に支えられながら高校、大学へと進学した。大学では教職課程を学んだものの、就職超氷河期時代だったために、非常勤講師にしかなれなかった。やむを得ず転職した映像制作会社の取材で、ウガンダやパレスチナ難民キャンプに行き、子どもたちの過酷な状況に触れた。それをきっかけに、世界をほんの少しでも変えるために、人を育てようと強く決心したのである。
 著者は、2012年9月、八王子つばめ塾(東京都)を開始した。経済的に苦しくて塾に通えない家庭の中学生を対象に、ボランティア講師が英語や数学などを無料で教える。時には、お米や食料の無料配布もするし、高校に進学した卒業生には奨学金も給付する。これまでの卒業生は300人を超え、つばめ塾の名前の通り、卒業生がボランティア講師として戻って来ることもある。塾の周囲には、寄付者も大勢いて、塾の運営を経済的に支えている。経済的格差を教育的格差にしないという八王子つばめ塾の思想と活動は、子どもたちの未来に希望の明かりをともすものだといえる。
(1430円 ソシム)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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