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【緊急特集】子どもの安全と命を守る 通学中の自転車用ヘルメット着用を

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 中高生の通学や日常の足として定着している自転車だが、命を守るヘルメット装着率は依然として低いままだ。どうすれば着用率を高められるのか―。ここでは、4月から、都立高校における通学中の装着を義務化した東京都を例に、全国の学校現場に早期の対策を呼びかける。

東京都・この春から都立学校で義務化
高校生の着用率は1割未満

 中高生の自転車事故が多い理由は、自転車利用や交通に関する経験が浅く、交通事故の危険性に対する認識が低いことが挙げられる。事実、事故の大半は急な飛び出しや信号無視などの法令違反によるものだ。
 特に、自転車事故では転倒時に頭に致命傷を負うケースが多く、死者の約7割が頭部の損傷が原因となっている。加えて、ヘルメットを装着していない場合の死亡確率は着用者の約3倍と跳ね上がることから、万が一の事故の際に命を守る自転車用ヘルメットの着用率を高めることが重要になっている。
 しかし、通学中のヘルメット装着率は、昨年4月に道路交通法の改正で努力義務化された後も徹底されておらず、今も中学生で4割、高校生は1割未満と遅れている。そのため、年齢別自転車乗車中の事故による死傷者数(令和3年・人口10万人当たり)でも、高校生の死傷者数が極めて多くなっている。

都立高校生の頭部損傷事故が多発

 こうした中、東京都では令和6年度を迎える4月から、すべての都立学校において自転車通学中に必ずヘルメットの着用を求めることとした。都立高校生の約45%(約5万5千人)が自転車通学をする中で、事故が増加傾向にあること。しかも、登下校中にヘルメットを着用せずに自転車を運転し、頭部を損傷する事故が数多く発生したことを受けて、生徒の安全と命を守る対策を強化することが目的だ。
 都立学校では、これまでも警察と連携した交通安全教室を全校で実施。そこではスケアード・ストレイト方式(事故の状況を再現した模擬演技)や自転車シミュレータ、東京都が作成したヘルメット着用推進動画を活用した指導を行ってきた経緯がある。また、義務化に先駆けて昨年10月からは「ヘルメット着用推進強化期間」と名打ち、全都立学校に対して通学時の着用を訴求してきた。
 その上で、今年度から学校には、生徒の自転車通学に関する許可や届出において、登下校時の「乗車用ヘルメットの着用」を条件または必須項目に加えるようにしたのだ。

着用率を高めるデザインも重要

 自転車用ヘルメットは衝撃を吸収することによって、脳へのダメージを抑え、脳震盪や脳挫傷リスクを低減させる。したがって、着用者が増加すれば、自ずと事故全体の安全性向上につながる。だからこそ、登下校時に関わらず着用率を高めるためには、これまでの学校で扱ってきたような「ダサい」「重い」ヘルメットから脱却し、いつでもかぶりたくなるようなデザインも重要になる。その意味で、現在ではデザイン性に優れ、軽くてスポーティーな自転車用ヘルメットが登場しており、選択肢も増えていることは歓迎したい。東京都もこの点を重視し、昨年末には高校生を対象に「自転車利用時にかぶりたい、ヘルメットコンテスト」を開催している。
 また、子どもたちだけに押し付けるのではなく、我々大人が率先してヘルメットを着用していかなければならない。昨年、警察庁が都道府県ごとに「着用率」を調べたところ、いまだ全国平均は13・5%にとどまっている。街中で見かける自転車利用者の誰もが装着するようになれば、子どもたちの安全意識も自然と高まるからだ。

「選び方」と「正しいかぶり方」

 一方、事故に遭ったときに命を守るためには、自転車用ヘルメットの「選び方」と「正しいかぶり方」が重要になる。まず、「選び方」において大事になるのは、自分の頭に合っていることだ。頭まわりサイズだけでなく、形も個人差があるため、必ず試着してから購入することをお薦めする。
 次に、安全性のチェック。ヘルメットは事故の際に「衝撃吸収発泡ライナー」がつぶれることで頭を守る。ただし、発泡ライナーが入っていない製品もあるので注意が必要だ。安全性の認証マークは、国内では製品安全協会の「SG」や日本自転車競技連盟の「JCF」マークが目印となる。
 「正しいかぶり方」については、ポイントは3つ。1つ目は「深く、まっすぐかぶる」こと。顔面接地時の負傷軽減のためには、ヘルメットと眉の間に、指が1~2本程度入るくらいを意識して装着することを心がけたい。続いて、「耳下のアジャスター調整」。耳の前後のひもをまとめる部品を、耳のすぐ下に配置。耳横でVの字にして、ヘルメットの安定性を高めるようにする。最後は「あごひもの長さを適切に」。あごひもは留めた際、口を開けて突っ張る程度の長さにすること。緩すぎると転倒時にズレたり、脱げ落ちたりする危険があるからだ。
 ヘルメットは正しくかぶることで、いざというときに本来の役割を果たす。自転車に乗る際は、ぜひとも正しくかぶれているかを確認してから運転して欲しい。

自転車用ヘルメットの正しいかぶり方

自転車保険の加入も欠かせない

 もう一つ、自転車運転は加害者になることも忘れてはならない。近年では、スマホを見ながら、友達と話しながらなど、運転に慣れ出した頃のちょっとした油断が大きな事故を引き起こしたケースが報告されている。このような法令違反をして事故を起こすと、たとえ未成年であっても刑事上の責任が問われる。加えて、相手にケガを負わせた場合は民事上の損害賠償責任も発生し、中には1億円近い額を請求されるケースも起きているからだ。
 こうしたことから、近年では自転車損害賠償保険等の加入を義務化する自治体も多くなっており、東京都もその一つだ。したがって、学校では保護者に対して必ず保険に加入するよう促し、自転車通学許可の条件に加えることをお勧めしたい。

地域格差も課題に

 自転車用ヘルメットの装着率については、昨年7月に実施した警察庁の調査で、地域ごとの差が非常に大きくなっていることも課題になっている。愛媛県では、以前から教育委員会が主導して通学時の着用を義務化してきた結果、中高生の着用率は、ほぼ100%に達している。一方で、新潟や青森、秋田などの東北地方は全体で2~3%あまりと極端に低くなっている。  
 その意味からも、都立校での義務化を決めた東京都のような取り組みを、一刻も早く全国の自治体にも広げていくことを期待したい。

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