子どもたちの命と生きる 大川小学校津波事故を見つめて
16面記事飯 考行 編著
50人以上の寄稿で見えてくる「あの日」
本書には、13年前の東日本大震災で在校していた児童と教職員のほとんどが津波により命を落とした大川小学校の事故を主題とし、さまざまな立場の人が自分の思いや考えを書き寄せている。「3・11」とは何だったのかが、角度を変えて浮かび上がる。
裁判を戦った遺族をはじめ、究極の選択を迫られながら児童を守り切った小学校校長などが登場する。原告側弁護士も、もちろん文章を寄せている。総勢で50人以上が名を連ねた。
確定した判決は長文で、読みこなすには時間が必要だが、本書からは、重要な論点が見えてくる。
被告側弁護士の記述は興味深い。大川小学校の地区の住民は、209人中、175人が犠牲になったという。震災発生当時、住民から「津波は来ない」との発言があったとされ、当時の教職員の戸惑いは、想像できる。
同じ石巻市内の小学校で、保護者の1人から「必死の叫び声」が上がって、山に逃げることを決め、避難した子ども全員の命が助かったという教員(当時)の寄稿も印象に残る。この保護者の叫び声がなかったら、校庭にとどまり続けたことは間違いないと明かす。
編著者は、法社会学の専門家。裁判を巡る法的な論述は、やや難解に感じられるが、中学生や高校生でも読めるような内容を目指して、書き寄せてもらったという。全編を読みこなさずとも、何かを得られるだろう。
(2860円 信山社)
(啓)