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ヤングケアラーの歩き方 家族グレーゾーンの世界を理解する

17面記事

書評

大庭 美代子 著 加藤 雅江 監修
多様な実態と周囲の対応を解説

 本書は、最近関心が集まりつつある「ヤングケアラー」の理解を促す書籍であるが、副題に掲げられている「家族グレーゾーン」すなわち家族の機能不全について理解が深まる、というのがより適切であろう。この機能不全の「しわ寄せ」の行き先が子どもになる、ということが、ヤングケアラーを理解する上での基本的な構造であることを、さまざまなパターンから示してくれる。
 各章(旅のストーリー)では、まずヤングケアラー当事者の人生(旅)について「旅人の日常」「旅人のエピソード」として記述される。続いて、そうした状況を理解するための解説と、周りの大人ができることが整理・提言され、一冊を通じて、さまざまなタイプの家族の機能不全が理解できる構成となっている。当事者や支援者の語りの価値はもちろん高いが、網羅的に(しかも具体的な記述を踏まえて)機能不全を見渡すことができる点でも、価値の高い書籍である。
 著者はヤングケアラー「である」とヤングケアラー「でない」の分類には、あまり意味がないという。本書が紹介する機能不全のグラデーションを読むにつれ、多様な背景・状況のある子ども・家族にどう関わり、どう支援するのかを考える難しさに直面する。高校生や大学生も含め、幅広い読者層にそうした「考える」きっかけを与える書籍である。
(1870円 風鳴舎)
(川上 泰彦・兵庫教育大学教授)

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